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「わかったわ。エレナは強いのね。私も見習うわ。」
「いいえ、私もずるいのです。私がわがままを通してここに残って、ハオマたちがここから出て行ってしまったら。私は何もできなかった自分にも、仕事を投げ出したことにも、ハオマとの交流を絶たれるかもしれないことも、全てに後悔し、自分や周りの人や出来事を恨むでしょう。それならば私も、私ができる全力を尽くす方が傷つかないと考えました。」
そういう考えもあるだろう。
でもハオマの決定を見届けなくても良いのだろうか?
本当に?
色々と思うところはあるのだが、エレナの決意をこれ以上乱さないことにした。
「ありがとう。では王都へ同行する侍女はエレナでお願いします。…もし気持ちが変わるようなら早めに教えてちょうだいね。」
「お心遣いありがとうございます。私の決意は変わりません。お支度は滞りなく進めていきます。お任せください。」
エレナはきっと心では残りたいという気持ちであっても、残るという選択はしないだろう。
1度決めたら違えないだろう。
あとはひたすらマンドレイク殿が来ないことを祈るばかりだ。
そう思いながらそれぞれの仕事をし、もうすぐ昼になる頃。
とうとうマンドレイク殿の使者から昼過ぎに訪問したいとの連絡が入った。
先延ばしにするよりは早く片付けた方が良いと思い、承諾した。
昼食をご一緒にとお伝えし、マンドレイク殿を迎える準備を進める。
ハオマにもいよいよということで心の準備をするよう伝えた。
昼食は私、オリバー殿、マンドレイク殿、ハオマの4人で会食することにした。ハルバード殿にも同席を相談したが、入口に立って見張りに徹すると。
アシャも同席するかハオマとも相談したが、もしハオマが戻らざるを得ない事情があってもアシャはここに残すつもりであるということであえて同席させないことにした。
もちろんハオマは戻るつもりはない。
ただ、元来優しく正義感の強い性格のようで、『ローズ様』のことでどうしてもハオマの力が必要なことがあれば流されそうな印象だ。
医師に任せると言ってはいるものの、自分にできることはやろうという気持ちもあるのが見える。
何もできなくても、何かをしたいと人のために動ける性分のようだ。
私たちはまだまだ若いから経験も浅く、どこまでが自分にできることなのかもわからない。
だからこそ諦めどころというか、自分には手に負えないと切り捨てるラインがわからない。
だからマンドレイク殿の交渉次第ではハオマは戻る選択をする可能性がある。
エレナはマンドレイク殿を侮っているけど、果たしてそうなのだろうか。
一筋縄ではいかないような、そんな予感がする。




