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「というのもな、エレナが奴の屋敷に泊まったんだ。エレナの性格上俺たちと完全別行動と言うのはしないはずなんだ。四つ葉が比較的安全なとこだってことを差し引いても、いくら俺が付いてたってダンのことがあるしな。その前日はダンが寂しがって泣かねえかって心配してたくらいだ。夜はハオマと部屋を共にするわけじゃねぇんだから、エレナは色んな義理を込めて宿に戻るはずなんだ。多分マンドレイクに言いくるめられてる。俺らの宿に使いじゃなくて奴が来たんだよ。そんで俺らがどう言っても、どう聞いても、何時に戻るかもわからないだの、もう戻らないかもだのぬかしやがった。さもエレナがそう言ったかのようにな。」
ゴールドガーデンへ戻る際の交渉はかなりあっさりとエレナ優位で進められたと思っていたが、前日のやり取りを忘れていたのだろうか?
腹が立って怒り心頭で記憶が上書きされたのかしら。
「そう。ではなぜエレナだけでなくハオマやアシャまでこちらに来ることを阻止しなかったのかしらね。」
私は考え込む風なポーズをとる。
ハルバード殿は自身の見解を述べてくれるはず。
「やっぱりここに居るとわかるからじゃねぇか?エレナはシャムロックでは領主の侍女長だと名乗ってる。確実にゴールドガーデンのこの城に戻ると踏んでる。まさか3人で駆け落ちだか夜逃げだかみたいなことは考えてないだろう。だからこそ好きにさせてんじゃねぇか?」
だがそうすると、マンドレイクの事情がこちらに筒抜けになるリスクも有るのでは?と思った矢先、ハルバード殿は続ける。
「ハオマが採掘場で金が採れることを知らねぇとおもってんじゃねぇか?とすれば、マンドレイクの言い分は『病気で困ってる友人を何とか助けてくれ』だ。連れ戻しに来る言い分だってよ、建前としては『診察のために一緒に戻ろう』だ。ローズ様とやらとの直接の面会を許さなかったんだろう?言い分としては事情を知らないこちらはハオマを引き渡すまたはハオマがシャムロックに戻る後押しをすると踏んでんじゃねぇか。」
なるほど。
連れ戻そうと思えば連れ戻せると。
ただ、こちらが向こうの事情を知らなければ、だが。
ハオマは一介の薬売りであるため、シャムロックやマンドレイク殿の運営などには基本関わっておらず、マンドレイク殿もただ病人へ薬をと強要しているだけに過ぎないというのが見解であれば確かに辻褄も合うだろう。
それで、無理やりという大変心証の悪い状況も、『病気で困っている友人を思うあまり行き過ぎていたことは謝る!』とか言い訳はできるわけだ。
「なるほど。ハルバード殿の見解は一貫性があり、大変説得力がありますね。それならいつでも連れ戻せると思いますもの。『賢く無い』判断したのはなぜですか?」
ハルバード殿はガハハと笑い出して答える。
「俺を馬鹿にしてみくびったことだ。…てのは冗談だが、ハオマがマンドレイクの懐に意外と入り込んでたことに気づいてないことだ。あとはな、ハオマにだけは裏の顔を見せていたことだ。脅しまでしてな。」




