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ダンがディアス家に養子縁組される道を選んだら、その先は後継として決して楽ではない道となるのだろう。
ディアス家でなくとも養子縁組したいと互いに思える家と出会えれば良いが。
みんなの方向性も具体的に決まってきて、あとはマンドレイクがハオマを取り戻すための動きが懸念される。
このまま引き下がるとも思えない。
クレアもそれを心配していた。
「ハオマ、アシャ。2人はこのままマンドレイク殿の動きに注意しながら、安全が確認できるまではこの城に滞在してください。その間に2人で暮らせるような家を準備しましょう。城の中でハーブ園の運営についての仕事をエレナと進めてください。本当に安全だということになれば、また行商に行くなど自由に生活して良いと考えています。そのため、ゴールドガーデン内でのあなたの地位として『相談役』と致します。医療や薬草などの知識を存分に発揮しながら、私の領地経営がより良くできるよう助言してください。あなたにその気があれば議会選挙に立候補していただきたいところです。」
領主らしい凛とした物言いで、それでいて物事を深く考えて、相手に寄り添う。
しかもとびっきりの美しい女性。
私にハオマと過ごせるチャンスが増えたことは確か。
でも、クレアみたいな素敵な女性が近くにいたらきっと、ハオマはクレアを慕うのではないかと急に不安になる。
私との間でさえ身分を気にするのだから、きっとクレアに恋をしても心に秘めて表には決して出さないだろう。
大好きな、大事な親友に対して、まだ何事も起きていないただの不安のせいで嫉妬する。
クレアは容姿も地位も恵まれている。
私には何もない。
でも、クレアだってここまでくるのに大変だったことはわかってる。
色んな感情が目まぐるしく出ては消え、次々にその気持ちと共にこんな自分勝手な気持ちになることへの嫌悪感に苛まれる。
欲張りなのだ。私は。
ハオマたちに会えただけで良かった。
元気で、幸せで良かった。
近くにいられることになって良かった。
才能を利用されるのではなく、自分の意思で発揮できる環境を作れることも良かった。
それで良かった。それだけで良かった。
そう思うことにした。
それ以上何かを望んでは、誰かを憎んだり、恨んだり、羨んだりするのだろう。
そんな自分になるのはいやだ。
このままハオマもアシャも、ダンも、それぞれが思うように生きられることを願いつつ、幸せであることを願おう。
別に私とハオマが再び恋に落ちなくても、別の道を進むことになっても、そもそも再開すらできないまま年老いていたかもしれないのだし。
成り行きに任せていくしかない。
私は私の精一杯の誠実さでみんなに心を示していくしかないのだ。




