220
まぁ結果だけ言うと、全て秒殺を超えた瞬殺でハルバードの5連勝。
悔し紛れに『もう一回』と言うあたりはゴロツキながらもフェアプレーの精神が残っているのだなと少しだけ見直した。
負けても絡んでイチャモンつけて、結局金を要求してくると思っていたから。
ハルバードは爽やかに二回戦を承諾し、またしても全員を瞬殺した。
とどめにひと睨みして、そのまま目以外は穏やかそうな笑みをたたえた表情でやつらに言う。
「ではこれで失礼しますね。私は心が広いので、二回戦も勝ったからと言ってその分の報酬を要求したりしませんよ?安心して見送ってくださいね?では。」
そして呆然とする男たちを横目に、素早く立ち去る。
相手と自分たちの力の差を感じたが故に追いかけてきたり、更にからんできたりしないのだろう。
『安心して見送って』くれて賢明な判断だ。
そして一つ葉も無事に通過し、シャムロックを抜けた。
あとはエルム村に立ち寄って馬を手配して、それからゴールドガーデンに戻る。
「ハルバード、なかなか頼りになるお父さんっぷりだったわよ。」
私の茶化しにハルバードは頭を掻きながらはにかむ。
「いきなり家族で、しかもお父さんとか言われたから焦ったじゃねぇか。エレナ、報酬追加請求するぞ?なんてな!ガハハハ!」
そう言って豪快に笑う。
「もちろんよ。警護対象が増えたのだから。当然報酬も上乗せするわ。」
「まじか?!ありがとよ!」
ハルバードはいつもなら仕事中はこんな冗談や大笑いはしないが、子どもたちのことを考えてわざとふざけて軽いノリで話しているのだろう。
「ダンもアシャもよく頑張ったわね。もう怖いことは無いと信じてるけど、用心は必要よ。ハルバードや私たちの指示をよく聞いてね。まずはエルム村に寄るわよ。」
追手は今のところ見当たらない。
やはりマンドレイクが幅を利かせられるのはシャムロック内だけなのだろうか。
油断しないように帰らねば。
「ハオマ、ゴールドガーデンに着いたら色々話しを聞かせてね。ここでは聞かないわ。」
ハオマにだけ聞こえるようにこそっと伝えると、ハオマも静かに頷く。
「エレナと兄さんがいちゃついてる〜」
アシャがからかってくるが、2人とも顔を赤らめながらも聞こえないふりをした。
「ダン、シャムロックを出るのは初めてなのよね?外はどう?」
話しを逸らすためにもダンに話しを振る。
「う〜ん。えっとね、なんも無いね。」
確かにこの辺りは店も何も無い。シャムロックの壁の外はただの道と、草木が生えているだけ。
「でも、町と違って草や木がこうやって自分で生えてるのってすごいね!」
ダンが目を輝かせる。
シャムロックは人工的なものしかないから、確かに自然に草花や木がある風景は初めて見るのだろう。
町の中にあるのは植えたものだから。
「そうね、ダンもこんな風に自由に伸び伸びと育って、素敵な花を咲かせて、実をつけられると良いわね。」
私の言葉の意味をわかっているかは定かではないが、ダンは嬉しそうに頷いた。




