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「申し訳ありません。私たちはそれほど裕福でもないので、お土産もほとんど買えませんでした。街を見て楽しんだだけなのです。手持ちにあるのは着替えなどの荷物だけ。ここを通して頂けませんか?」
私の言葉に大男たちは笑う。
「いやぁ、確かにお土産は少なそうだけどさ、金の匂いがプンプンするんだよね〜。お土産の代わりに通行料をくれよ。」
ハオマが持ってきたお金は全てアスター紙幣。
あとは私のアスター紙幣と、いくらかのシオン硬貨。
紙幣はただの紙だし、特に特別な香りはしない。
シオン硬貨も、金貨、銀貨、銅貨なのでそれほど強く匂いはないはず。あえて言うなら匂うとすれば価値の低い銅貨くらいではないか?
いっそシオン硬貨だけありったけ渡すか?
でもまだあるだろうとか言って余計絡まれそう。
「初めての家族旅行なの。お母さんが死んでしまって、やっと立ち直って、それでお父さんとお兄ちゃんと、弟たちとでシャムロック見物に来たのよ。このまま良い思い出のまま通らせてください。」
ハルバードはお父さん設定!
さて、お父さん。活躍を期待してるよ。
と言う気持ちを込めたアイコンタクトで、ハルバードが前に出る。
「と言う訳でね、このままここを通してくれないか?私たちはただの観光なんだ。沢山のお土産も無ければ、金もそんなには持ち合わせていないよ。」
ハルバードは下手に出てみる方針らしい。
まぁことを荒立てないに越したことはない。
「おっさん、そしたら10アスターで良いぜ。それで手を打とう。お嬢ちゃんも坊ちゃんもそこそこ良い服着てるぜ?身分はそこそこ悪くねぇんだろ?」
「いやいや、初めての観光のための一張羅ですよ。持ってる服の中で1番良いものを着てきたただのお上りさんなだけです。私はしがないかご細工やでしてね。儲けもたかが知れてます。妻にも先立たれて必死ですよ。」
ハルバードがなりきって小芝居をしていることがおかしくてたまらないが、笑うことは許されない状況のため必死で堪える。
俯いて、拳を握ってプルプルと震えていると、何を勘違いしたのか奴らがハルバードに向かって言う。
「ほら、お嬢ちゃんは怖くて震えてるぜ?かわいそうにな。親父さんが通行料を払えば無事に通すんだけどな。払ってくれないならお嬢ちゃんはどうなるかな〜。ここには男が5人〜。ははは!」
相変わらず陽気に言いやがる。
「ではこうしよう。腕相撲でもして、私が全員に勝てたら通してください。」
ハルバードが空気を気にしない発言をする。
奴らも一瞬『は?』という顔をしてからニヤニヤ笑い出す。
「さすがに5人もいればおっさんに勝ち目はないだろうよ。良いぜ。暇だし付き合ってやるよ。」
「では5人全員に私が勝てば、私たち全員安全にここを通らせて頂きますよ。私が負けたら、私が持っている金は全て差し上げますので、家族には手を出さず安全にここを通らせてくださいね。」
ゴロツキは笑う。
「いいだろう。男に二言は無ぇ。」




