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エルム村まで抜けられればある程度の危険はない。
シャムロックを抜けるのに目立たないように素早く行動せねば。
四つ葉はすんなりと抜けられた。
三つ葉では押し売りのしつこい人に絡まれたが、ハルバードの人睨みですごすごと引き下がっていった。
関所も行きよりも怪しまれずに通過でき、二つ葉へ。
町のほぼ中心で、1人の男に絡まれた。
かなり酒臭く、顔が赤い。
「おい、お前ら。その連れてるガキは俺の息子のケンだろう?何さらってこうとしてんだよ?ケン、早く帰って掃除とかやっとけ。」
ケンは怯えながらも男の目を見て言う。
「僕はダンだよ。ケンじゃないよ。」
男は私を睨みつけながら絡み続ける。
「そんなわけあるか〜。お前はケ〜ン。俺の息子だ〜。酒もねぇし、家も汚ねぇんだよ。早く何とかしとけよ〜!」
ダンは拳を握って唇を噛んで俯いている。
実の父が、息子の身の安全などの心配をするでもなく、ただの小間使いのように良いようにしか考えていないのだから。
これ以上はダンが傷つく。
「息子さんと似ているのですか?ですが、この子は私の弟のダンです。私たちは先を急いでいますので失礼しますね。」
ダンドリオンとも教えず、ダンとだけ伝えてみた。
この父親はダンのことに全く関心が無いのだろうか?
それとも、奥底には親子の情などの気持ちもあるのだろうか?
「ちょ〜と待ちなよ。俺んちの息子連れてっても良いけどよ〜、俺の大事な一人息子でよ〜、嫁さんも死んじまって俺の家族はそいつだけなんだよ〜。大事な家族なんだよ〜」
『連れてっても良い』?
けど、『大事な家族』だと思っているの?
いや、この感じ。
絶対思ってない。
この私でさえわかるほどに自己都合が強い性格のこの男が、ダンのことを大切に思っているだなんて期待させてはいけない。
「大切な息子さん、見つかると良いですね。では。」
そう言って立ち去ろうとすると、男は立ち塞がる。
「いやいや、話聞けよ〜!俺のたった1人っきりの息子なんだよ。他所になんてやれねぇよ〜」
「ですから、この子はケンくんではありませんよ?失礼しますね〜」
私の言葉なんて聞いてない。
「200。」
?
???
こいつ何?
訳がわからないわ。
「だぁから〜。200くれれば泣く泣く我慢してやるよ〜」
クズ。
クズに失礼だわなんておかしなことを考えるレベルで。
人間とは思えないというか、思いたく無い。
こいつと同じ種族であることを心の底から呪いたい。
「先ほどからこちらの話しを聞いていませんよね?この子はあなたの息子ではないので、私があなたへお金を支払うことはありませんよ。では。」
何度目かのお別れを告げているのに、一向にお別れできない辛さ。
私は『めんどくさいな』で良いが、ダンはそうもいかないだろう。
まだ幼いながらに感じたり、理解することはできるのだから。
コイツの言葉にダンが傷つくことは避けたい。




