216
マンドレイクは言葉に詰まる。
ハオマとアシャを交互に見て、拳を握っている。
勝った。
交渉では少しでも相手のペースに巻き込まれてはいけない。
何でも良いから自分のペースに持ち込む。
父からの教え。
温厚な父も、交渉では温厚さはそのままに、自分のペースで交渉を進めていた。
万が一言い負かされそうになれば、まだ年若い小娘のわがままとして私のペースに巻き込むつもりでいたが、普通にいけるようだ。
なぜこのように賢くは無い凡人が商人として成功しているのか甚だなぞだ。
大方クローバーストーンの独占市場での利益だろう。
対抗する商会もないから。
優秀な商人が本気を出したらマンドレイクの商会を乗っ取れるのではなかろうか。
「ハオマは流涎香を知っています。私もハオマほどでは無いのですが、流涎香については本物を見分けることはできると自負しています。ただ、万が一にも偽物であれば、マンドレイク様の損失となりますから。すり替えの可能性など、信頼の面でも、やはりハオマが私と流涎香を取りに行くのが最善策だと思いますわ。せっかくなのでアシャとももう少し一緒に居たいというわがままをお聞き入れくださいませ。」
しばらくし、一瞬ハオマの顔を睨みつけ、頷いた。
「そうですね。エレナさんのご提案でご対応をお願いします。代金を今ご用意致しますので、しばしお待ちください。」
マンドレイクはそう言うと立ち上がる。
「あ、マンドレイクさん、他の薬のこともあるから代金は僕が立て替えておきます。まとめて請求しますから、もうこれからすぐにここを発ちますね。」
ハオマがそう言うと、マンドレイクは座り、頭を抱えながら呟いた。
「すぐに戻るんだぞ。」
「…はい。善処します。」
そして私たちはマンドレイクの妨害などに遭わないよう、速やかに出発した。
おそらく誰か後をつけてくるのは確実だが、向こうの用意が整う前に脱出せねば。
ハルバードとダンと宿で落ち合い、事情もそこそこにまずはシャムロックからの脱出を最優先として急ぐこととした。
私だって『ローズ様』の正体とか、色々と知りたい。
しかし、どこに危険が潜んでいるかわからない今は、知らないフリをして怪しまれないようにする方が賢明だと思う。
「村に戻って馬を一頭連れて行こう。俺はもしもの時に動けるように一人で、エレナはダンと、ハオマとアシャで乗れば歩くより早い。ハオマは馬は乗れるか?」
ハルバードも、伝えたこと以外は深入りしないし、伝えたミッションについては最善策を提案してくれる。
「二人乗りはしたことないけど、馬は何度か遠出の時に使ったことがあるから大丈夫だと思います。」




