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マンドレイクはいかにも考えていますというように自身の顎を撫で、目を瞑る。
「エレナさん、お譲り頂いてもよろしいのですか?丁度入手ルートが見つからず困っていたのですよ。」
とても控えめな態度で問いかけられる。
先ほどのハオマとのことを見たのでその態度の変化に嫌悪感がすごい。
「構いませんよ。たまたま手に入りましたので。今後ゴールドガーデンではハーブの加工品を開発していく予定ですので、貴族の方向けの高級ラインも検討しておりまして、まだ企画段階ですし、こちらは急いで必要ではありませんので。詳しくは存じませんが、ご病気の方へのお薬が必要と伺いましたので、そちらを優先すべきかと。ですのでこれからハオマとゴールドガーデンに行き、流涎香をハオマに託そうと思います。ただし、さすがにかなりの貴重品ですので見返りなしでお譲りというわけには参りません。私が入手した時の卸値でお譲り致します。」
こちらもあくまでも丁寧に応え、怪しまれないようにしていく。
「ありがたいお申し出、感謝致します。代金についてはもちろんお支払い致します。…ところで、非常に緊急で必要なのですが、こちらから早馬で先回りして取りに伺えるとありがたいのですが。」
来た。
ハオマを出さないように向こうも色々と提案してくるはず。
「そうしたいのは山々なのでこちらも心苦しいのですが、流涎香は貴重ですので特殊な金庫にしまっています。あれを開けられるのは私だけなので、私が行かねばどうにもできないのです。」
「では護衛も兼ねてこちらの警備兵を付けましょう。ハオマよりもその者と行って頂いた方が安全で無駄もありますまい。」
「いえ、流涎香はその貴重さから偽物も多く出回っております。物自体が本物かは、見たことがある者でないと区別が付かないと思いますし、途中で金に目が眩んですり替えられる可能性だってありますので、私が信頼できる人…つまりはハオマですが…に同行をしてもらえると確実で良いかと思うのです。」
「しかしハオマでは安全面が…」
「ご心配なく。こちらには百戦錬磨の傭兵が同行しています。ハオマがこちらへ戻るまでの護衛を命じますから。彼がいれば問題なく安全に帰ってこられるでしょう。何ならここが戦地になっても安全に移動できるくらいの実力者ですわ。」
「しかし…アシャはなぜ?アシャは勉強もあることですし、ここに残った方が良いのでは?」
「え〜?何年かぶりに会えたのに僕だけもうここでバイバイなの?寂しいな…。マンドレイクさん、僕も行っちゃダメですか?」
「アシャだって私の大切なお友達ですし、本音を言えば私ももっと2人と昔話や現在の話し、今後の夢の話しなどもしたいのですよ。数年ぶりの再会なのですから。それを理由が理由ですので急いでいるのにそのせいでもうお別れだなんてあんまりですわ。私にはなんのメリットもありません。」
テンポよく応え、相手に主導権を握らせない。
お父様もそう言えばそんな『秘訣』をいつか教えてくれたわね。
「マンドレイク様、貴方様も商売を生業とされているのでしたら、互いに利益が無いどちらかにしか利益の無い取引はなさらないでしょう?最大限こちらも譲歩しています。せめて昔馴染みとの時間を持ちたいというわがままくらいお聞き入れ頂けませんか?それともお聞き入れ頂けない理由がおありで?」




