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「代用はできませんよ。あれは他の臭みのある薬の匂いをマシにします。とても良い香りがするのです。また、鎮痛の作用もありますから。他の素材では効能がかなり劣ります。」
「ではすぐに手配しよう。私は手配のため少し出かけるぞ。すぐに取り掛かるように。約束を違えれば…わかっているな。」
「わかっていますよ。」
話しが一通り終わったようだ。
マンドレイクが出てくる前に物陰に隠れた。
今はハルバードも居ないのだから、自分の身は自分で守らねば。
マンドレイクが足早に去っていくのを確認して、ハオマの部屋へ入る。
「エレナ?おはよう。朝からどうした?」
目を合わせずにそう言うハオマに、マンドレイクからの圧力でかなり動揺していることを察した。
「聞いたわ。あいつ大声で怒鳴ってるんだもの。私のことは心配しないで。宿にさえつけば昨日会ったでしょ?ハルバードに。彼はとても強い傭兵なの。何度も死線をくぐり抜けた猛者よ。彼がいればあいつらなんて返り討ちよ。だからハオマはハオマとアシャのことだけ考えて動いてね。」
私が外から話を聞いていたことを告げると、諦めたように私の目を見る。
そしてかなりの小声で話を始めた。
「そうか。エレナが言うならハルバードさんのことは信用できるから大丈夫なんだろうね。さっきのは嘘なんだ。もっともらしいもので中々手に入らないものばかり挙げといた。だからしばらくは時間を稼げる。それに僕は『薬を作ります』としか言ってないからね。ローズ様の薬をとも言ってないし、今後も作り続けるとも言ってない。だから何とか誤魔化して近々アシャと逃げるよ。」
静かに落ち着いた声で言われると、かなり決意が固まったように感じる。
「ハオマ、私と一緒に行きましょう。ゴールドガーデンへ。ずっと縛られる必要はないわ。落ち着いたらどこかへ移っても良いのよ。だから一旦ゴールドガーデンへ逃げましょう。ハルバードが居ればあなたたち2人だけで逃げるよりも、逃げられる可能性は高いわ。住むところとかは戻ってから責任を持って手配する。だから一時的な避難でも良いから、とにかく一緒に逃げましょう。ここで囚われて利用されるよりは良いはずよ。」
もちろん私が一緒に居たい下心もあるが、それを置いておいても、こんなところに大切な2人を残してなんて帰れないわ。
最早懇願に近いくらい必死にハオマヘ説得する。
「そうだね。それが良いかもしれないな。アシャのことがとにかく心配なんだ。せめてアシャだけでもここから出ないと。まずはハルバードさんと落ち合わないとだね。」
ハオマの同意を得られたことに、まずは安堵する。
ハルバードの居る宿へ行くには門番の居るところを通過する必要がある。
それらしい口実を作らねば。




