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だけどハオマの顔を見ていると、とても前向きな真っ直ぐな眼をしている。
後ろを振り返ることはないだろう。
それなら私も縋ったりというみっともないことはできない。
こまらせるだけだから。
私も前を向いて、また2人とも恋に落ちる未来に期待しよう。
そもそも私は、今のハオマ達が幸せかどうかを確かめたくて会いにきたのだから。
そして、また交流できると良いなと期待してきたのだから。
そんなに高望みしてはいけないわよね。
古今東西、多くを高望みしては何も得られないのは歴史が証明しているのだから。
何も犠牲にせずに望むものを得るだけなんて美味しい話はないのだから。
せめてみっともないことはしない。
凛とした私でいたい。
「僕もアシャもね、今の夢は独立してここを出て、自分たちだけで生活していくことなんだ。結局今まで、誰かに支えられてでしか生きてこられなかったからね。逆にこれからは恩返しをしていきたいんだ。誰かに支えてもらうのではなく、誰かを支えられる強さを得たいんだ。だから僕は薬屋としてどこへでも薬草を採りに行くし、売りに行く。父さん達みたいに病気の人のために薬を作るんだ。マンドレイクさんの計らいで週に1度はお医者様に講義を受けているんだ。医学を学び、薬を作る。そして誰かの助けとなれたらと今できることを精一杯頑張るんだ。アシャもそうさ。調香師になって、みんなを幸せにしたいんだって。それで勉強してる。いつか君やマンドレイクさんにも恩返しできたら良いな。」
ハオマはいつも真っ直ぐだ。
目標に向かって真っ直ぐ、全速力で駆け抜ける。
突然ドアがノックされ、40代くらいの男性が入ってきた。
「失礼するよ。お嬢さん、いらっしゃい。よく来たね。ハオマが友だちを連れてくるなんて初めてだと驚いていたのだが、それもこんな素敵お嬢さんだなんて更に驚いてしまったよ。私はフェルディナンド・マンドレイク。シャムロックを取りまとめる立場の者だ。ハオマ、話が聞こえたんだがな、恩返しするのは私の方だよ。君のおかげで医者も治せなかった病気が治ったのだからね。君に救われた命なのだから少しでも君への恩返しをさせてもらわないとね。それに君の薬はとても評判が良いからね。これからもずっとここに居て、私に恩返しをさせてくれよ。」
とても柔らかい物腰で、紳士的だ。
でも何だかよくわからない違和感を感じるのだ。
「突然の訪問大変失礼致します。私はゴールドガーデン領主のクレア・ディアス様の侍女長を務めておりますエレナと申します。ハオマさんとは、幼なじみでございまして。クレア様よりクローバーストーンの購入をと使いに来ましたので寄らせて頂いた次第でございます。夜分ですのに申し訳ございません。」
私もご挨拶をさせて頂き、マンドレイク様の様子を伺う。
この違和感の原因はなんだろう。
「いえいえ、いつでもお越し頂いて結構ですよ。よろしければ本日は当家に部屋を準備いたしましょう。ゆっくりとおくつろぎください。」
「いえ、それは申し訳ないですし、私も護衛達と行動しておりまして宿も取ってありますので。お気遣いは有り難いのですが今回はご遠慮させて頂きますわ。」
慌てて辞退を申し出るが、マンドレイク様は人の良い笑顔で更に続ける。




