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頭が真っ白になった。
そのくせに心臓はうるさいほど耳元で鳴っているのかというくらいにドキドキと拍動する。
「恵まれた環境で育った君を羨むことももちろんあった。でも君はそれを独り占めするんじゃなくて、誰かに分け与えることができる素敵な女の子だ。苦しむ人に寄り添って、自分のできることを考えて、精一杯頑張ってくれた。そんな君がいつの間にか好きだったみたいだ。」
ハオマの言葉に胸がいっぱいになる。
私も。
そしてその気持ちは今も。
私の初恋は終わっていないと思って良いのだろうか。
「笑っちゃうよな。会えなくなってから気持ちに気付くなんて。もう遅いって思うと歯痒くて。これでやっと自分の初恋にピリオドを打てるよ。今ならわかるけど、そもそも身分も違うし、僕じゃエレナには相応しくない。子どもの初恋なんてそんなもんだよな。」
告げるべきか。
私の気持ちも。
でもハオマの言い方ではもう今は…?
いや、私も初恋にピリオドを打とう。
結果がどうでも。
また恋を始められるかも知れないし。
「あのね、私も笑わないで聞いて欲しいんだけど。私があの時色々とあなたの力になりたいと願ったのはね、下心よ。家族を必死で支える強くて優しいあなたを、私も何かできたらって。力になりたいって。そう願っていたの。でもそれは子どもだった私の恋心だったの。あなたのことを好きだったから力になりたいと思っていたのよ。だからあなたが突然居なくなって、本当にしばらく立ち直れなかったわ。私の初恋よ。」
そう伝え、心の中で『そして今でもあなたを想っているわ』と呟く。
ハオマの中ではどうだろう。
もう彼の中でも終わっているのだろうか。
それとも、今でもと同じ気持ちでいてくれているのだろうか。
「時間が巻き戻せたら良いのにね。でも巻き戻っても結局実らない恋だよね。どの道僕たちは町を出なければいけなかったし、貧民と富裕層とじゃ成り立たないよね。結果的には『初恋の良き思い出』ってことで良かったのかな。」
思い出で終わらせなければいけないの?
この想いは今には繋がらないの?
初恋とは儚く砕け散るものなのだろうか。
ハオマの中では一区切り付いたようで、今更どうこうという気は無いようだ。
それなら私も過去は思い出に、これからを期待しても良いだろうか。
「過ぎた時間は戻らないわ。この失った数年でお互いも、お互いを取り巻く環境も大きく変わったわ。これからの私たちが、何を思い、誰と過ごしていくのか、それはわからないけれど、少なくとも友だちとして過ごせるのだから。もう1度恋することもあるかも知れない。あるいはずっと、一生友だちかも知れない。過ぎ去った時間より、これからの時間を有意義に過ごしましょう。もしどちらの結果でも同じ気持ちでいられるのであれば、それが私たちの運命なのでしょうね。」
精一杯の強がりで、そう応えた。
本当は叫びたい。縋りたい。
あなたのことを今でも好き。あなたと共に在りたい。




