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ハオマ達が私に会いにきてくれていたなんて知らなかった。
お父様もそんなことは一言も言っていなかった。
まぁただの行商だと思っているなら言わないか。
「会えて嬉しいわ。私もずっと2人に会いたくて、行方を探してたんだけど中々情報がなくて。そりゃあそうよね。シャムロックの四つ葉なんて隔離されたところに居るんだもの。今幸せそうで安心してる。」
ハオマは私の目をじっと見ている。
お互いに何も言わずに見つめ合うこと数秒。
「エレナ。黙って行ったこと本当に悪かったと思ってる。改めて僕からも言わせて。僕たちとまた友だちとして会ったり、手紙のやり取りをしてください。」
さっきは私からお願いして了承してもらったことだが、改まってハオマに言われると、何だか胸がそわそわと落ち着かない感じがする。
「もちろんよ。これからは黙って居なくなるなんて無しよ!絶対にね!」
そう答えるとハオマはケラケラと笑う。
「本当にごめんな。もうあんなことは絶対ないよ。ここから出るとしてもちゃんと知らせるし、何か節目には必ず連絡するから。」
「約束よ?あの時私、悲しくてしばらく立ち直れなかったんだから。」
私の言葉にハオマは気まずそうにしつつ口をつぐんだ。
どうしたのだろう?
「ハオマ?」
ハオマはまた私の目を見てじっと動かない。
男性と2人きりの部屋でじっと見つめ合うなんてはじめてのことで、気恥ずかしさに顔が熱くなっていくのがわかる。
「エレナ、笑わないで聞いてくれる?」
真剣な顔して面白いことをしたつもりなのか、それとも本人は真面目な話しでも周りにはおかしな話をしようとしているのか。
「ええ、笑ったりしないわ。」
何の話をしようとしているのか皆目見当もつかず、心の準備が出来ない。笑っちゃう話だったらどうしよう。
「僕たち家族はどん底の時に君に助けてもらって、おかげで両親にも薬を飲ませたり、食事をさせることができた。君の支えが無ければきっと両親はは病気ではなく餓死していたと思う。」
全然おかしくない話しだった。
笑いどころなんて無いじゃないか。
「でも私は結局何も出来なかったわ。何も助けられなかった。誰も助けられなかった。」
私の言葉にハオマは違うと言う。
「あのまま家族みんな餓死してたら、両親を弔うことも出来なかった。それに、絶望しながら両親の旅立ちを見送ることになったと思う。最後まで両親を見送れたのは、間違い無く君のおかげだ。両親も笑顔で旅立ったんだよ。あの時は自分がいっぱいいっぱいで、両親が亡くなってから君にそれを伝えられなくて。本当にありがとう。それでね、僕は君と会えなくなって気付いたんだ。僕の初恋だったんだ。エレナが。」




