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この屋敷はシャムロックを統括する村長のような立場の方のお屋敷だそうだ。
その方はフェルディナンド・マンドレイク男爵。
クローバーストーンで財を築き、秘伝の加工法をこの屋敷の別館で守っているのだとか。
ハオマとアシャはマンドレイク男爵に気に入られ、客人として2年ほど前から屋敷にいるそうだ。
ハオマはここに滞在しつつ、仕事も続けているのだとか。
そんな話をしていると、アシャの待つという部屋に着いた。
この扉の向こうにアシャがいる。
緊張するけれど、1度深呼吸して扉を開けた。
最後にあったことよりも大分背が伸びた。
それでもまだ10歳くらいだから、まだまだこれからもっと背が伸びるかもしれない。
「やぁエレナ。久しぶりだね。」
あの頃と変わらない笑顔のアシャがいた。
ふかふかのソファーに掛けると、アシャと話をはじめる。
「アシャ、大きくなったわね。今はもう10歳くらいかしらね。私のことを覚えているかしら?王都でよく一緒に遊んでいたエレナよ。」
当たり障りない挨拶からスタートした。
「もちろん覚えているさ。君には本当に世話になったからね。あ、エレナと2人にしてもらえるかな?」
男の子も退室し、私とアシャだけの静かな部屋。
「エレナ、あの時はたくさん助けてくれてありがとう。あれからの兄さんと僕のことを知りたいんだろう?話すよ。でもその前に、突然居なくなってごめんね。」
アシャは急な引越しからのことを順を追って説明してくれた。
両親も亡くなり、ハオマとアシャはある意味で自由になり、家族のためでなく自分たちのために働くという生活を切り拓いていくことにした。
私に告げると、私がなにがしかの援助を申し出るのもわかっていたし、もう十分助けてもらったのにこれ以上は頼れない。
だからひっそりと2人だけで旅立ったのだと。
王都を出てからは通行手形も無いため行ける町を転々としながら薬草を採取し、乾燥させたりしながらそれを商品として細々と売る生活をしていた。
ローズガーデンの手前に来た時、この屋敷の主人のマンドレイク男爵と出会った。
彼は伝染病に罹患し、大分衰弱していたそうだ。
せめてもの慰めにと、少しでも症状を和らげる作用のある薬草を煎じて服用させてみたりするうちに、すっかり回復し、以降は彼らのことを命の恩人と自らの屋敷で世話をすると申し出てくれた。
とりあえず住むところを与えてくれるのはありがたいと受け入れ、ただ、仕事はコツコツと続けることにした。
アシャはシャムロックの学校に行かせてもらえることとなり勉強するうちに、ハオマのように人のためになれる仕事に就きたいと思いたつ。
学校でもアロマテラピーのことを知り、調香師として香りで人を癒していこうと考えたそうだ。
ここでお金を貯め、いつかは自立できるように資金を積み立てているそうだ。




