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物語のように私に王子様が現れることがあるのか?
貴族らしくどこかの誰かと結婚させられる?
いや、私はきっと居ないものだと。
存在すら消えているのだろう。
この5年程は誰とも話さず、一人で孤独に過ごしたのだ。
家族がどう過ごしているのかすら知らない。
というより、家族とすら呼べないくらいの遠い存在だ。
叔父たちの顔や、従姉妹たちの顔もわからない。
いつまでこんな毎日が続くのか。
そう思っていた。
終わりは突然だ。
クーデターというものなのか。
領民が領主に反乱を起こしたようだ。
離れでビクビクと怯えているしかできない。
見つからないように、ひっそりと隅に隠れていた。
しかし、見つかってしまうのだ。
殺されるのか。私の人生ってなんと短く、なんとつまらないものだったのだろう。
そう思った刹那、かけられた言葉は優しかった。
「クレア様、ご無事でしたのですね!先代のアーノルド様がお亡くなりになられてからは全くお見かけすることも無く、まれに噂話でお寂しそうにお一人でいらっしゃると伺うばかりで。皆どうしていらっしゃるのか御身を案じておりました。」
「わた、私のことをご存知なのですか…?」
久しぶりに人と会話するということで声がうまく出ない。
見た目としては私の父だと言っても良いくらいの年齢か。たくましい体つきの男性。
「お父様にとてもよく似ていらっしゃる。お母様の優しい眼差しも。どこから見ても貴女様はこの地方の本物の領主様でいらっしゃいます。
私はオリバーと申します。
今の領主のオズワルドが領民から税を取り立て、財を搾取し、いよいよ餓死する者すら出てくる…。我々は立ち上がることを決意し城に踏み込んで参りました。まさか貴女様へお会い出来るとは思わず、大変嬉しく思います。」
両親の顔を知っているということは恐らくこの男性はそれなりに地位のある方なのだろう。
見知った程度なら私のことなんて分かりようもないのだ。
聞きたいことはたくさんあるが、私はどうなるのだろうか。この様子ならきっと殺されることはなさそうだが。
「これからこの城は、叔父たちはどうなるのですか?」
思い切って聞いてみた。
「オズワルドたちは捕らえられて断罪されるでしょう。城はアーノルド様たちが貴方へ残した数少ない思い出でしょうからここを拠点として新たな領主を決めることになるでしょう。」
オリバー様はそう言って笑いかけてくださった。
オリバー様と共に城へ入った。
叔父も叔母も、従姉妹も居ない。
もう捕らえられたあとか。