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「…と。話してるうちに着いたみたいだぞ。地図ではここだ。」
一件の家の前で足を止めると、大きな邸宅がそこにはある。
家の周りは塀で囲われており、警備の男性まで立っている。
青年2人暮らしの家の大きさではない。
ましてや彼らがこの数年でここまでの財力を持ったと考えるのも中々難しいだろう。
となると、誰か資産家の家に間借りしていると考えるのが妥当か。
良い出会いであるなら良かった。
警備兵へ声をかけてみることにする。
「あの、こちらのお屋敷にハオマとアシャという少年の兄弟は住んでいますか?」
すると警備兵は姿勢を正して答える。
「ハオマ様とアシャ様は確かにこちらにお住まいです。あなた方はどなたでしょうか?」
『様』が付いている?
ハオマとアシャはここで何かしらの成功を収めたのだろうか?
ここは2人の家なの?
「申し遅れました。私はゴールドガーデン領主クレア・ディアス伯爵の侍女をしておりますエレナと申します。ハオマとアシャとは幼なじみでして、王都で暮らしていた頃は大変仲良くして頂いておりました。本日は特にお約束はないのですが、彼らに会うことは可能でしょうか?」
警備兵は私の言葉を聞くと、「しばしおまちを」と言って笛を吹く。
笛の音を聞いてすぐ、屋敷から10歳くらいの男の子が出てきた。
男の子は伝令的な役割なのだろう。
警備兵も持ち場を離れることなくやりとりをする。
これほど厳重に警備している豪邸なのだから、ハオマ『様』たちもそれなりのポストに就いているのだろう。
男の子が屋敷へ駆け込み、数分ほど経ってから急いで戻ってきた。
「お待たせ致しました。ハオマ様は現在仕事のためお屋敷を離れておられます。夕方にはお戻りになる予定ですが、アシャ様がまずはお会いなさるそうです。中へどうぞ。」
アシャに会える!
ハオマとは夜か明日会えたら嬉しい。
「ハルバード、ダン。あなた方は『お使い』をお願いね。それが済めば好きに過ごしてくれて良いわ。日暮れと共に門の前に集まりましょう。」
私が2人にそう告げると、男の子は不思議そうに尋ねた。
「お二人はお会いにならずともよろしいのですか?」
言葉遣いは見た目に似合わないくらい丁寧に話すものの、不思議そうに小首を傾げて尋ねる様子は子どもらしくてかわいい。
「お気遣いありがとうございます。彼らは私の付き添いなだけですから。ハオマたちと面識があるのは私だけなので、面会も私だけで問題ありません。」
「そうでしたか。ではご案内致します。」
そして彼についていき、屋敷の中へ。
玄関はとても広く、調度品も華美になり過ぎずとても品の良い物を数点飾っている。
全くごちゃごちゃしていないため、広さを際立たせている。
男の子と世間話をすると、彼は執事見習いで奉公にきて、現在は学校での勉学と同時進行で仕事をこなしているそうだ。
名は「名乗るなんて恐れ多い」と教えてくれなかった。
この屋敷の主人はハオマでもアシャでも無かった。




