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大人のズルさをダンはどう感じるだろう。
この子は汚い世界をどこまで知っているのだろう。
「ふーん。そうなんだ。盗まれちゃった人はかわいそうだけど、そうならないようにおじちゃんみたいな守ってくれる人について来てもらわないのがいけないね。お店もずるいけど、みんなそれを知ってるのに買いに来るんだもんね。」
私もハルバードも、クールな結論を出したダンに少し面食らう。
「言うじゃねぇか!その通りだ。護衛の金をケチると結局宝を失う。護衛をしっかりつけて十分な金を支払えば、護衛が守ってくれるから宝は盗られねぇ。護衛をケチって良いのは自分に武があるやつだけだ。誰にも負けねぇような腕っ節がな。ガハハ!」
ハルバードが満足そうに笑うと、ダンもニコニコしながら言う。
「じゃあおじちゃんは1人でもお買い物に来られるんだね!おじちゃんは誰にも負けないもん。強いもん!僕も強くなれるかなぁ?そしたらお使いでも何でも自分でできて、エレナお姉ちゃんのお手伝いいっぱいできるもん。」
ダンは私の心を完全に射抜いている。
なんてかわいいのだろう。
「まずはな、人に優しくなれ。自分に厳しくなれ。そのために人の優しさを感じろ。人にしてもらって嬉しいことを人にするんだ。間違うな。良い顔ばっかすんじゃねぇんだ。その人にとって1番良い結果になることを言ったり、したりするんだ。それでケンカしちまうこともある。でもな、相手のことを本気で考えられねぇと本当に優しい人にはなれねぇんだ。だからお前にとって厳しくてもためになることを言ってくれるやつには感謝するんだぞ。」
ハルバードの深くて良い話しを聞き、ダンは目を輝かせる。
「ケンカしちゃったら嫌われちゃわないの?僕みんなと仲良くしたいな。」
「ケンカはしても良いんだ。どっちも正しいことも、どっちも間違ってることもある。正解が必ずあるわけじゃねぇ。ただな、相手のことを思いやった結果ケンカになるのは仕方ねぇ。だからそんな時は謝らなくても良いから、お前のことを考えて言ってくれたことを感謝したら良い。やっちゃダメなのはな、自分の都合だけで押し通すただのわがままでのケンカだ。自分のためのケンカでやって良いのは、お前の信念のためのケンカだ。」
ハルバードの深い深い話しは続く。
私もこうしてハルバードに人としての在り方をいくらか学んだ。
共に過ごすほどに彼の人生哲学を学べるだろう。
命がけの経験をたくさんしているからこそ、より言葉に重みがあるのだろう。
いっそハルバードもゴールドガーデンに来てくれたらよいのに。
ハルバードにはハルバードの人生があるし、彼の人生に責任を持てないけど、そう願ってしまう。
私たちは彼から学べることがたくさんある。




