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子ども好きでハルバードにもよく懐いているダンを連れて帰りたい気持ちが間違いなくハルバードにもあるだろうが、傭兵として家に不在になりがちな上にいつ命を落としてもおかしくない身の上なため、切り出さないのだろう。
あえて私もダンにどっちについていきたいかは聞かない。
私が連れ出したし、名付け親も私。
私の責任なのだから。
互いの身の上話をして更に打ち解けたことで、楽しく食事も終えた。
あの大量の料理の大半はハルバードの体内へ吸収されたことは中々の衝撃だ。
翌日に備え、休む。
ダンにとっては家から出た初めての夜だ。
悪魔など見なければ良いが。
それに、寂しくて泣いてしまったりしないだろうか?
そんな心配を抱え、私とハルバードの間で眠るダンを時々確認するが、ハルバードも同じことを考えていたのだろう。
寝返りを打つフリをしてダンの様子を見ているのだ。
「ねぇハルバード。私があなたとお使いに行った時のことを思い出したの。あの時もハルバードは私のことをとても良く気にかけてくれて、寝る時も一睡もせずに見守ってくれてたわよね。」
小声で話しかける私に、ハルバードも呟くように返す。
「バレてたのか。寝たふりしてたんだけどな。何不自由なく両親と暮らすお嬢様が、少しばかり治安の悪い知らねぇ町に来てよ、俺みたいなのと居たら普通怖くて寝らんねえだろ。でもエレナは意外と図太いのかいつのまにか寝てたから安心したんだよな。それでも突然起きて泣きださないか心配でよ。」
ハルバードの優しさ。
「あの時、中々寝付けなくて。寝たふりしてたんだけどハルバードはそれに気づいてお話ししたじゃない?ハルバードの子どもの頃のイタズラ話のエトセトラとか、食事こそが生き甲斐なのに某食堂にてボラれた挙句にメシマズで、全部の机をひっくり返したかったけどお店が潰れちゃうから我慢したとか。夜なのに大きな声で笑っちゃって。気付いたら寝てたのよね。」
ハルバードの話は本当に面白くて、テンポよく抑揚もつけて話すから聞いていて飽きない。
昼間も仕事中は真面目に護衛してくれてたけど、食事の時とか休憩中は親父ギャグを連発しながら楽しませてくれた。
「全部本当の話だぞ。俺結構悪ガキだったんだよな。今もこんな感じで意外と小心者だからよ、食堂のテーブルひっくり返したら営業出来なくて、しかもそのうち潰れるなとか考えたら思いとどまってよ。まぁあの味と値段じゃすぐ潰れるのは間違いなかったし、実際次の月にはもう閉めてあったもんな。」
「いいえ、ハルバードはね、小心者じゃなくて優しいのよ。だから強いのね。私、あなたとのあのお使いのお陰で色々と学んだのよ。優しいってどう言うことか、強いってどう言うことか、仕事への姿勢とか。今でもそれらが私の芯を作ってるわ。決してブレない芯を作るためにも、とても有意義な時間だったの。ダンもあなたから学べることを自分で学んでくれると思うわ。短い間ってことになってしまうけど、旅の終わりまでよろしくね。」
「おう。ダンを養子にしたい気持ちはかなりあるんだがな。俺に万が一のことがあったらとか、恨みのある奴らからの襲撃とか、俺といることで危険が伴っちまうからな。来るか?なんて言えねぇ。エレナもそこんとこわかっててあえて言わねぇんだろ?選択肢に挙げるとダンも悩むしな。このままエレナとゴールドガーデンに行った方がダンの為だ。さて、寝ようぜ。」




