194
ダンはただ自分の感情だけで物事を見ない。
冷静に分析する力があり、どうすべきか考えられる。
父親のことも、今までは父親しか生きるために頼れなかったから父の庇護を受けていただけ。
あわよくば父がダンのことを息子として認めてくれたら良いが、ただの厄介な子どもで、家政婦的にぞんざいに扱われても仕方のないことと悟ってしまっていた。
幼い子どもが、幼いながらに現実を知り、受け止めていた。
やはりダンはクレアと近い境遇と言える。
私が知らないだけで国中、いや世界中でこのような子どもはたくさんいるのかもしれない。
クレアはそれをわかっているから、子どもたちの未来を作りたいのだろうか。
クレアはとても壮大なスケールで物事を見ていたのね。
やっぱり領主として終わるのは勿体ないわ。
王妃様になれば国中が動かせるのに。
クレアほど上に立つべき女性は居ないもの。
「ダン、私ね、今こうして四つ葉を目指しているのは初恋の人に会うためなのよ。突然会えなくなって、不完全燃焼なままの気持ちにけりをつけるの。いいえ、けりはつかなくても良いのだけど、その人たちが今どうしているのか、幸せなのか、自分の目で見たいの。そして、もし私の気持ちを向かうべき方向に向かわせられたらと思ってね。失恋でも良いの。また友だちとして接することができれば良いなって。」
ハルバードにも話していなかったことを2人に伝える。
「はつこい?ふかんぜん…?しつれん?わかんないけど、お友だちにまたお友だちになろうって言うんだね!」
かわいいえくぼを見せて笑うダンに、涙が出そうになる。
「そうなの。またお友だちになれるかな?ずっと会いたくて探してたの。やっと見つけて、やっと会えるの。」
ハルバードは黙って聞いてくれている(と思うけど、黙々と食べているから半分聞いてないのかもしれない)。
「良かったね!エレナお姉ちゃんのお友だちが見つかって僕も嬉しい。明日会えるの?僕も楽しみだなぁ。エレナお姉ちゃんが大好きなお友だちなんでしょ?じゃあ僕も大好き!」
賢いのに子どもらしさも失わずに持っているダン。
子どもらしさを捨てざるを得なかったクレアやハオマ。
せめてダンはずっと無邪気さを少しでも残したまま大人になって欲しい。
ハルバードがようやく口を開いた。
「ダン、エレナの友だちに会うときはな、挨拶くらいはしても良いだろうけど、俺と少し離れたとこで話して待つぞ。」
ダンはぽかんとしながら「なんで?」と聞いた。
「大切なご用があるからよ。だから2人でしっかりお話ししたいの。ダンとハルバードはこの旅が終わったらしばらく会えなくなるわ。ダンは私とゴールドガーデンに戻るから。だからハルバードにたくさん強さとか、優しさとか、勇気とかを教えてもらうと良いわ。」
そう言うと少し残念そうにして納得してくれた。
しかもダンが残念そうなのは『ハルバードとしばしの別れとなること』なのだ。




