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懸命に服選びをしているダンを微笑ましく眺めていると、すっかり忘れかけていたがハルバードも自身の服を選んでいる。
そういえば御用達と言っていたわね。
2人がせっせと服選びに勤しむ中、私はふと庭仕事用に帽子でも買おうかと思い立った。
それぞれが目的のものを見つけ、購入した。
ダンには背負い鞄も買い、衣類は全て鞄へしまった。
「エレナお姉ちゃん、お洋服たくさんありがとう。ぼく新しいお洋服買ってもらったの初めてなんだ!とっても嬉しい!」
宿でお風呂を済ませてから着るようにと、まだ着るのはお預けにしたが、それでもそれを待つのすらワクワクしているようであり、本当に愛らしい。
クレアも芸術的な美しさを持ち、それでいて放っておけない儚さもある。
ダンも可愛らしくて堪らず、芯がある子だが時々怯えるそぶりも見せ、庇護欲を掻き立てられる。
私は世話焼き体質なのだろう。
誰かに寄り添うことが好きだし、力になれるならなりたい。
ただ、互いに依存的になったり、相手と一緒に感情の渦に飲み込まれないようには気をつけたい。
寄り添うが、深入りしすぎず、私と相手は別々の人格であることを常々意識しなければ。
それは当たり前のことなのだが、私にとって意外に難しいことなのだ。
宿へ戻るとそれぞれ湯浴みを済ませ、ダンは新しい服を着てご満悦だ。
ハルバードも何か新調していたが、服は湯浴み前と同じものを着ていると思う。
「いやぁエレナ、いい汗かいたあとはひとっ風呂浴びて汗を流すに限るな!服も新調したし、良い感じだ!」
「えっ?!それさっき買ったやつなの?同じじゃない?」
間違い探しか?
違いがわからない。
「さっきまで着てたやつはな、酔っ払いがナイフを出しやがって脇腹んとこ破れたんだよな〜。んで、せっかくだから新調したんだよ〜。おニューなんだぜ〜!」
わ…わからない。
「ダン、違いわかる?」
こっそりダンに聞いてみる。
「あのね、さっきのは左のお腹のとこ破れちゃってたの。あとね、足の裾?って言うのかな?端っこんとこが砂で少し白っぽかったんだよ!でも今のは真っ黒!ぼくね、背が低いからよく見てたの。」
ダンもこっそり私に耳打ちしてくれる。
そうか、子どもの目線なら確かに腹部や足元は良く見えるだろうが、ちゃんとそこまで分析できるなんてダンは賢いな。
父親以外と話したりできなかったから話し方は幼さがあるが、きちんと教育を受けたら伸びそうだ。
「ハルバード、一生懸命服を選んでいる風な様子だったけど、寸分違わぬ同じものを買うなんて選んでた意味あるの?」
素朴な疑問だ。
「馬鹿言っちゃいけねぇな!ベースはこれだ。でもな、もしこれより動きやすくて機能性の高い服があるかもしれねぇだろ?んで、そんなのがあれば変えるし、無ければやっぱりこれが一番だなってことで予備も含めて買っとくんだよ。さっきのは破れちまったから捨てるしな!」
ハルバードが盛大に笑うと、ダンが声を上げた。
「えっ?!もったいないよ!ぼくが直してあげるからまた着れるよ!ぼくいつもお洋服が破れたら直してたんだよ。」




