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酔いどれたちはとっくに片付き、ハルバードによって道の脇に大きい順に積み重ねられていた。
うん、邪魔にならずに良いと思うわ。
「ケン、お父さんとお別れはしていく?それとももうこのまま行く?」
私の問いに考える間も無く答える。
「ぼくは今ここで死んだ。だからもう帰らない。父さんはぼくに興味ないのはわかってるんだ。それよりも酒がない!って怒るに決まってる。わざわざお別れはしなくて良いよ。」
潔いが、本当にこれで良いのかと私の方が悩みそうだ。
「坊主、偉かったな。頑張ったな。この姉ちゃんは優しいんだぞ。信じて良い人間だ。」
ハルバードはそう言ってケンの頭をポンポンと優しく撫でる。
「ぼく…もうこれから新しい人になる!だから名前をつけてくれないかな?ケンって呼んでるのも父さんだけだった。他の人は名前も呼んでくれない。こんな名前はもう必要ないんだ。」
確かにこれからこの子の父親がもし探すようなことがあればバレやすいし、新たな決意として名を変えるのも悪くない。
「ケン、親がお前にくれたものはな、まずその命。そして、名前なんだよ。他のものはくれたりくれなかったりするけどよ、間違いなくお前はそれだけはもらえた。親から貰った数少ないものを手放して良いのか?」
ハルバードがそう言うと、ケンはきっぱりと頷く。
「良いんだ。ケンは死んだんだ。ぼくは、ぼくの意思で生まれ変わったんだ。今生まれたんだ。だから名前をください。」
ハルバードは優しく微笑む。
「だとよ。付けてやれよ、名前。」
しばらく悩み、そして決めた。
「あなたは今日から『ダンドリオン』よ。だから愛称は『ダン』ね!たんぽぽのことなのよ。『ライオンの歯』という意味でその名前が付いたの。強くたくましくなって欲しい。そして明るく朗らかに昼は陽に向かって咲いて。夜はゆっくり休む早寝早起きなお花よ。沢山の小さな花が集まって1つの花を作っているの。そして、種は風に乗って遠くへ飛び、新たな地に芽吹くの。ダン1人じゃなにかをやるのは大変でも、たんぽぽのようにみんなと力を合わせて頑張って花を咲かせ、種のようにどこまでもその努力を広げられるように頑張りなさい。」
そう言うとダンはたんぽぽが花開いたように明るい笑顔を見せてくれた。
「ありがとう!ぼくその名前にぴったりな人になれるように頑張るよ!」
やっぱりかわいい。
アッシュ系の少し癖のある髪、頬にはえくぼ、色白で下がり眉のかわいい男の子だ。
「これから私のお手伝いをしてね。お勉強も教えてあげるわ。字を読めるようになりましょう。私の尊敬する友はこれから子どもたちが自分で人生を拓けるような世の中を作るわ。そのお手伝いをしているのよ。あなたも手伝ってね。」
「うん!」
こうして3人での移動をはじめる。
もう少しで日暮れ。
急いで三つ葉へ移動して宿を取ろう。




