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男たちは多勢に無勢と強気にいきり立っている。
多勢とは言っても、ただのガタイの良い男が3人居るだけだが。
「酒は『結果的には』無事だったが、ダメになっていたかもしれねぇし、何より、シラけた。酒の席の空気は台無しなんだよ!」
男の子はまだ泣いている。
酔っ払いどもはハルバードに任せて、私は男の子をなだめる。
「シラけた空気も盛り上げられねぇなんて酒呑み失格だな。酒は楽しく気持ちよく飲むもんだぞ。俺が酒の呑み方を教えてやりてぇとこだがな、こっちも急いだんだよ。くだらねぇ酔っ払いに付き合うほど暇じゃねぇ。選べよ。この坊主と笑顔で『バイバイ』するか、いっそこの辺からもしくはもうこの世から『バイバイ』するか。」
ハルバード、子どもの前でそんな恐ろしいことを言うなんて後で文句を言わねば。
まぁアイツらの2択よりは随分と優しい2択だわ。
男の子を抱きしめながら事の成り行きを見守る。
「面白ぇこと言うじゃねぇか。俺たち3人とお前1人でヤろうってのか?それともそこのお嬢ちゃんもガキもかませ犬にでもするってか?やれるもんならやってみろよ。」
強気な姿勢を崩さないところを見ると、喧嘩は場数を踏んでいたとしても敵の力量を図れるほどには強く無いようだ。
ハルバードは戦でも活躍するほどに腕のある傭兵なのだが。
流石に殺しはしないだろうと思うが何だか心配だ。
ハルバードは子どもが大好きで、優しい。
村の子どもたちのこともすごく可愛がっている。
それに、弱いものいじめは何よりも嫌う。
『本当に力のあるものは無闇にそれを振りかざすもんじゃねぇ。俺は優しさと力は同じだと思ってんだ。だから本当に強い奴は弱い奴を助ける。優しい奴は強くなれる。あとは自分の心との戦いだ。』
以前そう言って笑っていたのを思い出した。
私はただ優しいだけの人間で、その優しさも打算でしかなかった。
人に嫌われたく無いから。
優しさを履き違えないように自分を見つめ直すきっかけになった。
誰よりも強いハルバードだから、とても説得力があって、心に沁みた。
彼は誰よりも優しいのだ。
「俺1人で十分だ。お前らみてぇな奴らにゃ負けねぇよ。いつでもかかって来いよ。」
ハルバードは腕組みして直立不動で男たちの攻撃を待っている。
この先を男の子に見せないよう、私は男の子と話しをする。
「坊やはお名前なんて言うの?」
私の問いに、まだ怯えながら答えてくれた。
「ぼく、ケンって言うの。ケンカに強くなるようにって父さんが言ってた。でもぼく怖くてケンカなんてできないの。」
なんて可愛いんだと思ったり、まさかのケンカに強くなれと名付けたセンスについて思うところがあったが、まずはケンを落ち着かせよう。
「そう。ケンは優しいのね。おうちのお手伝いもできて偉いわね。ケンは何歳なの?」
「8歳だよ。ぼく、まだ子どもだからお仕事とかできなくて。だからぼくがおうちのことはやるんだ。」
まだ怯えているものの、誇らしげにそう言った。




