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あちこちから怒鳴り声が聞こえるため、そういう声には耐性ができ動じなくなったが、突然子どもの叫び声が聞こえた。
「ごめんなさい!でもぼくなにもしないよ!お使いの帰りなんだ!ちゃんと買っとかないとぼく怒られちゃうんだよ!」
そう言って泣き叫んでいる。
同時に、男の怒鳴り声を拾う。
あちこちで男が怒鳴っているからどれがどの組み合わせなのやら。
「坊主。てめぇ俺様の目の前を横切るのも許せねぇがよ、俺の酒瓶を倒したんだぞ?わかってんのか?そんなに死にてぇか?」
男に捲し立てられ、泣き叫ぶこえは止まない。
声のする方へハルバードへ目配せして進む。
「ごめんなさい!でもお酒は蓋がちゃんと閉まってたからこぼれてないし、瓶も割れてないよ?ぼくおじさんたちの邪魔をしないように避けて通ろうとしたんだ。でもおじさんたちが急に動いちゃったから避けようとして瓶に手が当たっちゃったんだよ!」
「俺たちが悪いってのか?てめぇバカにしやがって!その手に持ってる酒を置いていきな!それで勘弁してやるよ。」
男の子は一層泣く。
「これはダメなんだよ!父さんが仕事の後にお酒が家に無いと怒るんだ!ぼくぶたれちゃうんだよ!今日ぼくはおうちの仕事をいっぱいやってたんだよ。そしたらお使いに行くのが遅くなっちゃったんだ!本当にごめんなさい。許してください。」
「そりゃかわいそうにな!でも俺の知ったこっちゃねぇよ!選べよ。俺にぶたれるか、親父にぶたれるか、どっちにすんだよ?」
そして男の子(多分)は大泣きして言葉を発せずにいる。
「泣いてちゃわかんねえよ!早くしろよ。子どもと遊んでる暇はねぇんだよ。こうなったらよぉ、めんどくせぇから俺にぶちのめされてその酒も置いていけよ。ビービーうるせえからその迷惑料だ。」
取り巻きなのか?他の奴らも笑い始めた。
急がねば子どもが奴らに酷い目に遭わされてしまう。
更に急ぐと、ようやく何個目かの角を曲がって、現場を見つけることができた。
「本当にごめんなさい〜!許してください〜!」
そう泣き叫んでいるのはやはり男の子。
しかも思っていたより小さな子だ。
おそらく6歳くらいに見える。
私が何か言う前に、ハルバードが男の子へ声をかける。
「坊主、怖かったな。もう大丈夫だぞ。遅くなってごめんな。」
そして男たちに向き合う。
「なんだ?コイツの親父か?だったらコイツがよ、俺らの酒を台無しにしたんだよ。どう落とし前つけんだ?あぁ?」
絡み方がいかにもな感じでやはり三下な印象だ。
「親父殿では無いが、話しは聞いていた。大の男が大人気ないと感じたが、酒を台無しとは?どこに台無しになった酒があるんだ?」




