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一つ葉を越えればあとはそれほどの危険はないだろう。まぁ帰りはまた危険だが。
少しずつ検問所へ近づいていく。
私の右側に馬が居るが、その陰から突然人が現れて大きな声で叫びだした。
「痛ぇ!馬に踏まれた!!こりゃあ折れたんじゃねえか?痛ぇよ〜。どうしてくれんだよ?!」
年は40くらいだろうか。中肉中背だが背丈が私ほどの小さめな中年男性だ。
私の馬に足を踏まれと言う。
更に陰からもう1人現れ、まくしたてて来た。
「おめぇ小さいからなぁ。見えなかったんじゃねぇか?ウシシシ。足が折れたって?どれ、見せてみろ。」
筋骨隆々の180センチはあろう30代ほどの男性が加わる。
「ありゃこりゃあ折れてんな。これじゃあ明日からの仕事もできやしねぇな。どうすんだ?困ったぞ〜」
2人はニヤニヤしている。
イチャモンをつけて金をせびろうと言うのか。
面倒なことになった。
ここは事を荒立てずにいくらか渡すか?
いや、そうすると帰りにまたカモにされて更にせびられるに違いない。
「私の馬が大変申し訳ない事を致しました。よろしければお手当てをさせていただきたいのですが、御御足を拝見できますか?」
下手に出て様子を見てみる。
大男が急いで包帯を巻き始めた。
…用意の良い事で。
「手当ては俺がするから大丈夫だ。ただなぁ、コイツ明日からの仕事ができねえとよ、家族に飯を食わせてやれねぇんだよな。コイツガキが7人もいてよ。かかあも病気で金がかかるし、困ったなぁ。」
大男が良い人のようなことをわざとらしくのたまう。
「痛ぇよ〜!どうしたら良いんだよ〜!?明日から暮らしていけねぇよ!俺たちゃお終いだ。死ぬしかねぇ。」
小男も人生詰んだという顔で私をみる。
「申し訳ございませんでした。ただ、もし骨が折れているのであれば、包帯だけでなくきちんと副え木を致しましょう?骨がズレてしまうと治りも悪くなりますし。包帯を外しますね。」
私が足を見てみようと近づくと、大男が遮る。
「まずは応急処置だからこれで大丈夫だ。俺の手当てが悪いってのかい?イチャモンつけてくれるのか?」
私を小娘だからと凄んできはじめた。
金を出せと言わないのは、こちらから言わせようとしているのだろう。
「わかりました。治療費をお支払い致しましょう。」
私がそう言うと2人とも顔を合わせてニヤリと笑う。
「ただし、私も人様にお怪我を負わせたという事実をきちんと受け止め、反省したいのです。あなたの足の状態を見た上で、適切な治療費と慰謝料と、当面のご家族を含めた生活費を支払う必要があるでしょう。お怪我に見合った金額をお支払い致しますので、お怪我のご状態を確認させてくださいませ。」
男たちの顔が一瞬固まり、愛想笑いを始める。




