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領の境に関所が見えた。
門番が検問している。
クレアから貰った通行手形を用意し、門番に見せると、一瞬本物か疑われたがハルバードの睨みの甲斐もあって無事通行できた。
思い出すと笑ってしまいそうになる。
「ちゃんとディアス家の家紋の印がある上に、クレア様の直筆のサインがあるのにどこが怪しいってんだ?クレア・ディアス伯爵様からの使いである我らを通さぬと言うのか?」
ハルバードのドスの効いたその言葉と、大の男もちびりそうなひと睨みで門番は驚くほどあっさりと通してくれた。
ハルバードの忍耐が足りずすぐに口を出したが、まぁ3分くらいうだうだと偽物だなんだと難癖をつけられた。
「お嬢さん、こんなのどうやって作ったの?偽造は犯罪だよ?わかってる?憲兵に連絡しても良いんだよ?まぁ連絡しないであげても良いけど…ねぇ?」
大方袖の下を寄越せと言いたいのだろう。
私がこれは本物だ、本人からの使いでローズガーデンへ行くのだと訴えたが、まぁ信じてはくれなかった。
ハルバードが例の文句を言う前に言った一言も今後は私も参考にしようと思ったのだが、
「門番殿、貴殿の所属とお名前を伺っても?」
ハルバードは紳士的に下手に出て優しげに聞いたのだが、それすらバカにして来たのだ。
「お前のような流れの傭兵に名乗らずとも良い。さぁ、どうする?憲兵を呼ぶか?」
イヒヒヒと下品に笑い、ハルバードはキレた。
思い出すと痛快だ。
「ハルバード、ありがとう。」
そう言うと、ハルバードは聞こえないふりをする。
しばらくすると壁が見えて来た。
「さて主人殿。いよいよシャムロック地区だ。心を乱さぬよう平常心でいるように。ゴロツキに目をつけられたら面倒だ。」
仕事中は親父ギャグも言わずに真面目なところが彼のプロフェッショナルなところだ。
「ええ。わかってるわ。頼りにしてるわよ。」
シャムロック地区の検問を通過する。
はじめの入口は難なく通過した。
問題は1つ葉のゴロツキと、2つ葉との検問だ。
この壁の中は馬に乗っては進めない。
馬を降りて引いて歩く。
ジロジロとゴロツキたちが品定めするように私とハルバードを見ている。
気にしていないかのように前を見て進む。
たまにヤジが飛んでくるが、それも気にしない。
「お嬢ちゃん、茶でも飲んでかないかい?」
「町娘みたいななりだけど護衛なんてつけて、金持ちのお嬢ちゃんなんだろ?」
「護衛のおっさんなんかほっといてこっちに来なよ〜」
などなど。
ハルバードも一瞥もせずについて来ているだろうと思う。わざわざ振り返って確認はしない。
町娘では無いことは流石にバレているが、ハルバードの圧からかヤジだけで手を出してくる者は居なかった。
2つ葉まであと300mほど。




