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これで護衛は心配ない。
「もちろんよ。3日間ほどになる可能性があるのだけど、いくら払えば良いの?」
「言い値で出してくれんのか?」
「額によるわよ。」
交渉は得意ではないが、ハルバードはきっと無茶をふっかけては来ない。
少なくとも私には。たぶん。
「そうだな、3日間だろ?その間の食事や宿代は?」
「もちろん私が報酬とは別に払うわよ。」
長い顎髭を触りながら空を見上げる。
「じゃあ特別価格だ。5で良いぞ。5アスターだ。」
国内の平均的な年収が150アスター。
それを考えると3日で5アスターは割高だと思うが、命を賭けて護衛してくれる傭兵への報酬と考えると確かに特別価格と言うだけあって割安だ。
父の傭兵との交渉では1日で5アスターというのもよくあったくらいだ。
「そうね、5アスターで良いわ。宿代などの雑費は私持ち。あとは何か確認することはある?」
宿代は大体1人あたり5000シオン(10000シオンで1アスター)かかる。
2泊するなら2アスター別にかかる計算だ。
宿は大体朝食が付くことがほとんどだから、あと2食分の食費と。
ハルバードが大食いで酒呑みなのは知っているが、少しは遠慮してくれることを祈るばかりだわ。
「馬には?馬にもちゃんと食わせてくれよな!俺のにも、お前のにもな!」
「わかってるわよ。人参でも買っておきましょう。」
「よし、交渉成立だ!よろしくな、ご主人!そうと決まればよし、行くぞ!」
家へ戻って簡単に支度を終えると、すぐに出発した。
ニーナさんが昼食にとおにぎりを大量に持たせてくれたことに、ハルバードの食欲への不安が募る。
とりあえず今日の昼食代が浮いたのはありがたい。
馬で駆けながら、ハルバードは私の後ろをついてくる形で周囲を警戒してくれている。
雇い主の前を先導すると、後ろで何かあったときに対応できないからだとか。
後ろをついて行くなら、前で何かあってもすぐに回り込んで対応できるそうだ。
雇い主と傭兵の関係になってしまったからには、今回の旅の目的を聞いて来たりはしない。
元々それほど人の事情に首を突っ込まない方針のようだ。
父曰く、傭兵が相手のプライベートに近づくほど、相手に何かあった場合に仕事として以上の責任を感じてしまうからだそう。
父とハルバードの関係は割とプライベートの関係もあるが、だからこそあまり傭兵としては雇わないそうだ。自分のためにハルバードが命を落としてしまうことの無いように。
それで私のお使い程度の護衛ならと私にハルバードを紹介してくれたのだ。
命の危険はほとんどないからこそ。
今回はゴロツキも多い地区に足を踏み入れるため、ある程度の危険は間違いなくあるだろう。
「ハルバード、万が一のことだけど、もしもあなたの手に負えない状況になったら逃げるのよ。絶対にね。」
私が前を向きながら後ろにいる彼へ声を掛ける。
聞こえただろうか。
聞こえなかったかもしれない。




