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エレナは地図をじっと見て、考え込む。
特に急かすつもりもないので、ゆっくりとエレナの返事を待つ。
まぁ返事はなくとももう3日の休暇は決定しているのだから、どう結論付けても問題ないし、今結論を出したつもりでも後から気が変わる可能性だってある。
ローズガーデンのシャムロック地区まではおよそ3時間で行くことのできる距離だ。
3日あれば何回でも行ける機会はある。
ハオマに会えるかは運次第だが。
私はあまり気にしていない風を装って朝食を食べる。
本当はヤキモキして仕方ないのだが。
エレナは固まったように微動だにせず考えを巡らせているようだ。
それはそうだろう。
ずっと探していたどこにいるのかわからない初恋の相手の安否や居場所がわかり、しかも今からでも会いに行くことが許された状況を突然突きつけられたのだから。
思考も感情も追いつかないのは当然だ。
数分…十数分経っただろうか。
朝食も食べ終え、自分で食後のお茶を淹れる。
エレナの分もお茶を淹れエレナの目の前に置くと、ハッとしたように私の方を向く。
「あ、えっと…クレア、ありがとう。ハオマたちが生きていて、自分たちの生活を送れていることがわかって嬉しいわ。でも、会うのにはまだ心の準備ができていなくて…」
いつもハキハキと元気で竹を割ったような性格のエレナが、うだうだと悩んでいるのは何だか新鮮だ。
初めて見るエレナの姿に、友として嬉しい気持ちになる。
支え、背中を押してもらってばかりな私が、今度は何か力になれるかもしれない。
「私も知らせを聞いて安堵したわ。エレナ、昔の友に会うのに心の準備がいるの?何を準備したら会えるの?理由なく友を訪ねることはいけないの?」
私の問いにまだ踏ん切りがつかない返答を返す。
「いえ、どんな時も友に会うことに理由は要らないけど…。かつて私が彼らに何もしてあげられなかった気まずさと言うか、罪悪感と言うか…。もちろん友として以上の感情があることも確かで、恋人が居たらどうしようとか、結婚しているかもしれないとか、思うところは色々あるわ。どんな顔して会いにいけば良いのか、会って何を話せば良いのか、会ってからのことが全く考えられないのよ。」
いつもはこんな悩みは私がする側で、それにエレナが的確なアドバイスをしてくれていた。
逆の立場ならエレナは私になんと言うだろう。
「そんなの会ってから考えたら良いじゃない。今のハオマの隣に誰かいるのか、それも確かめたら良いじゃない。思いを伝えたって良いじゃない。もし決まった相手が居ても、あなたの想いが届かなくても、それであなたの恋に区切りがつくのよ。想いが届く可能性だってあるわ。今のお互いの状況を心ゆくまで語らえば良いじゃない。このまま時間が過ぎれば、それこそエレナの想いがハオマの中から遠ざかるかも知れないのよ。これから恋人になるか、友としてまた交流できるか、それはわからないけれど行かないよりは良いはずよ。」




