165
ハーブ園の話がひと段落したところで、エレナが私をジッと見つめる。
「…エレナ?どうしたの?」
いたたまれずにエレナへ声をかけると、真顔のままにエレナが私に問いかける。
「クレアはお昼ご飯は遅めに摂ることが多かったわ。今日はたまたまなの?何かあったの?」
さすが勘の良いエレナ。
「…私を誘拐した一味の女性の正体がわかったの。私の従姉妹よ。彼女が主犯なのか、それともただの実行犯の一味なのかはわからないの。国内に指名手配するようにしたのだけれど、これをすぐに解決させられない私の未熟さが悔しくて。テッドの旅立ちまでには解決したいのに、自分では何もできないの。あの時みたいに色んな負の感情が渦巻いてきているの。1人でいるとどうしても渦に飲み込まれそうだから、エレナと一緒に居たいと思ったのよ。ごめんなさいね、エレナも忙しい中で振り回してしまって。」
「良かった。あなたが1人で抱え込まなくて。私こそあなたに何もしてあげられないもの。あなたの心を軽くすることも、あなたの笑顔を守ることも。親友なのに何もできないわ。だからクレアからSOSを出してくれて良かった。私、何もできないなりに、一緒にいることくらいできるわ。」
エレナの言葉に胸が熱くなる。あと、目頭も。
「ありがとう。私はきっと自分のことを過大評価しているのね、きっと。だからできないことを悔やむのよね。初めからできないものと思えば悩むこともないのに。」
私の言葉にエレナも頷く。
「そうね、何だかんだクレアは15歳の女の子なのよ。それ以上でもそれ以下でもなくね。領主って肩書きはあるけど、それによって人生の経験値が増えるわけでも無いし、ちょこっとこれから得る経験値の増え方が大きくなるくらいだもの。権力だってあなたみたいな民主主義な領主にはそれほど無いわ。私はあなたより年上だけど、それでもその問題を解決できる結論は導き出せないし、経験値も高く無いわ。人に任せる・頼ることができるようになってきただけでも急成長よ。できないことは、できる人に任せるしか無いのよね。」
くよくよと解決できないことを悩み、それで心を病むよりは、潔く自分には無理と割り切れる思考ができるようにしたい。
自分の感情や思考をコントロールせねば、この先やっていけないだろう。
「私ではどうしようもないということを客観的にも認められると安心するわね。1人だと本当にそうかしら?って考えてドツボにはまるのよ。本当はもっとやりようがあるんじゃないかしらって。エレナに話せて良かったわ。ありがとう。」
「今日はこれから2人でハーブ園に行かない?のんびりしましょうよ。」
午後の執務も多少あるが、たまには気分転換も大切だと思い、エレナの提案を受けることにした。
「ではあと1時間後に行きましょう。それまでに用意するわね。」




