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緊張なのか、自分の勝手さへの罪悪感なのか、愛を手離す淋しさなのか。
何とも胸が詰まるような感覚を覚える。
もう一度深呼吸をして続ける。
「そんな数ヶ月を過ごすうちに、私は己の凡庸さを痛感したのです。そこに加えて起こったクレア様誘拐事件です。あの時に私はクレア様を救おうとしたのですが返り討ちに遭い、私は我が身可愛さに逃げ出しました。命をかけてお守りせねばなさない方を前に。そんな自分が私は許せない。そして、私はクレア様に相応しくないという確信を持ちました。同時に、クレア様と共に居るだけであの時の、返り討ちに遭った時の恐怖が甦るのです。私の一方的なわがままでしかないのですが、私はクレア様との婚約を解消して頂きたいと申し出ました。クレア様はそれはよくよく私の今後についてをご心配くださいました。しかし私は決めたのです。」
皆が固唾を飲んで見守る中、再度深呼吸をして続ける。
「クレア様と婚約解消したのち、私はゴールドガーデンから出て行き、旅に出ます。己の不甲斐なさや弱さを克服して、自分の道を探します。それが私の希望です。元々婚約もお互いの気持ちを尊重して、1年後に正式に決定するという方針でしたし、私もクレア様も互いにそういった感情でなければ何も問題ないと思っています。私の一方的なわがままで皆様を振り回してしまうのは申し訳ありませんが、どうかご了承いただき、快く私の門出を見守って頂けたらと思います。」
だいぶ長く演説のようになってしまったが、嘘でもなく、本音と建前も上手くまとめられたように思う。
「エドワード殿、それはもう決定事項なのですよね…?これからやっぱり私たちとゴールドガーデンで力を合わせて生きていくという可能性はないのですか?」
予想した通りの質問だ。
「これは決定事項です。クレア様ご本人も、父も了承し、国王陛下からも認めてくださったのです。覆すことは致しません。療養期限が終わった翌日にはたとうと思います。1番振り回すことになってしまったクレア様にも申し訳なく思っています。」
会議室はざわついていたが、特に質問や意見もなく報告を終えた。
まだ療養中であり、今後領外へ出て行く身のため、以降の議題について同席することは出来ないのだ。
『部外者』なのだから。
さて、最初の旅先をどこにしようか。
報告も終わって肩の荷も降りたし、喪失感も相まって心が軽い。
軽いのか、空っぽなのかよくわからないが、とにかく先ほどまでの重苦しい感じは全くない。
どこにでも飛んでいけそうだ。
風に任せて、漂っていけそうだ。




