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殿下は不意に言う。
「君はクレアのことが好きなのだろう?なのになぜ婚約者という立場を捨てるのだ?」
本当に不思議でたまらないようだ。
「私は己の無力さを身をもって知りました。大切な人を守れない。傷つけてしまう。それがショックでした。そして、クレア殿と居ると、その不甲斐ない自分を思い出し、あの時の悔しさが、罪悪感が、無力感が、恐怖が、蘇るのです。クレア殿とは共に在りたい、支えたいと思う気持ちとは裏腹に、そんな気持ちに囚われるのです。私ではクレア殿を幸せにできないし、私も共にいて辛い。そんな気持ちを抱いてからは、クレア殿の今後のためにも早めに婚約解消をして、よりクレア殿に相応しい方との出会いがあるようにすべきだと思ったのです。」
淡々と話したつもりだったが、うっすらと涙ぐんでしまった。
「そうか。そなたは強いな。自分のことだけでなく、好きな女のために行動できるなんて。私ならクレアを離すことはできない。いくら自分が不甲斐なくとも、時間が解決することを願ってしまう。」
強くなんて、ない。
弱い自分が顔を出すことが嫌なのだ。
逃げ出したのだ。
それを。
強いだなんて。
「殿下は素晴らしい方です。地位も名誉もあり、実力もあり、思いやりなど、人としても素晴らしい方です。私では太刀打ちできないほどに。どうかクレア殿を幸せにしてください。そして、殿下もお幸せになっていただきたいです。クレア殿は純粋で無垢で、素朴な方です。見た目の美しさも人間離れしていますが、お考えやお気持ちも中々に。あまり人やその心に触れずに成長されたがゆえに、考えられないほどに鈍感な部分もあります。しかし、仕事については明晰で、驚くほど先を見ておられます。殿下がこれからたくさんの感情を教えてさしあげてください。クレア様は未来の王妃様としてご立派な女性となるでしょう。」
心からの気持ちを伝えた。
クレア殿にも、殿下にも、共に幸せになって、幸せな国を作っていただきたい。
「エドワード殿、私はそんなにできた人間ではない。大人気なくあんなことをしてクレアを戸惑わせたし、余裕のない子どものようだ。そなたよりも年上なのに恥ずかしいくらいだ。私もクレアとともに在りたい。クレアと共に成長したい。できる努力を惜しまず、クレアに良い返事をもらえるように頑張ろうと思う。エドワード殿、私の良き友人となってくれるだろうか。それとも憎き恋敵とはもう会いたくないかな。」
唐突なお申し出に戸惑ってしまう。
「い、いいえ、畏れ多いことでございます。クレア殿は殿下にしか任せられないと思っているくらいです。むしろ応援いたしております。是非ともクレア殿の心を射止めてくださいませ。」
返事になっていない返事をしてしまった。
「では『クレアの幸せを願う同盟』としてそなたと私は盟友だ。良ければ相談に乗ってくれたら嬉しいし、何かあればクレアのことでも、エドワード殿のことでも知らせてくれ。できることは必ず力になる。」
こうして謎の同盟が結成され、私と王太子殿下の関係は盟友となった。




