151
〜エドワードside〜
国王陛下に謁見するなんて、きっと今後の人生ではもう2度とないだろう。
そんな人生最大の難関。
クレア殿と私の婚約解消を国王陛下にご報告し、承認していただく。
思っていたよりもあっけないほどスムーズにこれは済んだ。
が。
まさかマーティン殿下がクレア殿に求婚なさるなんて。
陛下の御前であることもあり、これは最早決定事項なのではないか?
私はクレア殿を愛している。
しかし、不甲斐ない私よりは殿下の方がクレア殿は幸せになれるのは間違いない。
手を離したのは私なのに、この苦しみは何なのだろう。
未婚の貴族で特に決まった人が居なければ、すぐに縁談が来るのは当然ではないか。
こんなにも自分との差を見せつけられたら、どんなに悔しくとも認めるしかない。
頭がうまく働かないまま、叙爵式も終わり、パーティーが始まる。
予想通りだが、クレアのダンスのパートナーは殿下だ。
3曲も。
2人のダンスは絵のような美しさと、儚さを感じた。
どう見ても似合いの2人。
花のように揺れるクレア殿と、力強い殿下の動きは、まさに芸術的。
あまりの美しさに、皆が注目している。
叶いっこないのだ。
立場や地位だけではない。
王太子殿下であるのに、クレア殿のために命をかけることのできる勇敢さ。
クレア殿と私との婚約がありつつも自身の想いを抑えてクレア殿を見守る優しさ。
身分を置いておいても、男としても、マーティン殿下はクレア殿に相応しい。
そんなことを考えながら2人のダンスを見ていると、殿下は公然で求婚なされた。
殿下は本気だ。
自身やクレア殿に縁談が来ないように、釘を刺しているとも言えるだろう。
周囲へのアピール。
何も恐れず、ただクレア殿を求めている。
かなりの勝負に出ている感はあるが、殿下の男気を感じた。
パーティーのあと。
私は殿下を呼び止めた。バルコニーで殿下とお話しさせて頂いた。
「お忙しいのに私のためにお時間を頂きましてありがとうございます。クレア殿とのこと、驚きました。」
「だろうな。誰もが藪から棒に、突然と思うだろう。」
殿下はふっと自嘲気味に笑いながら続ける。
「前からクレアのことを想っていた。誘拐事件後、クレアは自分を責めて、その罪悪感に押しつぶされそうになっていてな。涙も止まらず、ずっと『ごめんなさい』と言うのだ。そんな弱いクレアを見て、守り、支えたいと強く思ったのだ。この腕の中に閉じ込めて、全てから守りたいと思ったのだ。君という存在があるのを知りながらな。とんだ横恋慕だよ。」
「そうでしたか。私の知らぬ間にクレア殿を支えてくださっていたのですね。ありがとうございます。」




