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オリバー殿との相談を終え、殿下へお手紙をしたためる。
『マーティン・ハイガーデン王太子殿下
先日は身に余る有り難いお言葉、ありがとうございました。
私も前向きに検討していこうと思いますが、やはり私は殿下のことを知らなすぎます。
1年の猶予を頂きたく思います。
来年の叙爵式から1年という日に、改めてお互いに結論を出したいと思います。
殿下も私を知ることで、私が何てことない田舎の貴族であることがお分かりになるでしょう。
お互いがお互いを知り、その上で気持ちを確認させて頂きたいと思います。
お忙しいとは思いますが、月に一度でもお茶会などで交流を深めて行けたらと思います
ご都合のつく時にご連絡頂けたら、王城へお伺いするでも、殿下にお越し頂くでも良いので、お会いできたらと思います。
ゴールドガーデン伯 クレア・ディアス 』
メッセンジャーへ手紙を託す。
殿下のことだ。きっと今日中にお返事をくださるだろう。
こちらは全く急がないが。
殿下のことを知ることで、殿下がどんな人物として私の心の中に残るのだろう。
その私の中にいる殿下が、私の心を動かすのだろうか。
オリバー殿の言う通り、殿下との縁談をお断りしたとしても、いずれ私には縁談がきて、その相手と心を通わせる保証はない。
その相手が善人だという保証も、私が幸せになる保証もない。
こうして人生の分岐点で選択できることが幸せだと思う。
普通は政略結婚で、いかに家にとって有益であるかで決め、互いの心なんて関係ないのだから。
殿下に恋することができたら、きっと幸せになれるのだろう。
でもその時は、今の生活が一変してしまうのだ。
このまま友情のような気持ちのままなら、この地に骨を埋めることになり、人生の伴侶はきっとその時のゴールドガーデンに最も有益な家柄の方を婿として迎えることになるのだろう。
それでも精一杯努力したら、幸せになれるのだろうか。
選択の結果、その後の人生はその人の更にその後の選択の責任であると。
これは漏れなく私にも言えることだ。
どの未来を選択しても、幸せになれるかは私次第。
せめて、共に歩む方には幸せになっていただきたいものだが。
今日は昼から会議だ。
婚約解消についてはテッドが臨時で出席して報告するだろう。
殿下からの求婚についてはまだ殿下からのお返事をいただいていないからまだ報告せずとも良いかと思うが、何せマリー殿あたりが既に情報を得ている可能性も高い。
これについては聞かれたらという程度に留めよう。
重大な報告事項が多い会議だが、選挙について明日から動き始めるためにもしっかりと話を詰めなければ。
無事爵位を賜わったこともきちんと報告して。




