15
何かしらの夢を見たことは覚えている。
しかしどんな夢だったのか、誰が出てきたのか、良い夢なのか、悪い夢なのか、全く覚えていない。
まぁそんなことはよくあること。
それだけ良く眠ったのだろう。
ともあれ外はもう明るく、小鳥のさえずりが聞こえる。
普段早起きな分寝過ごしたような気がするが、日はまだそれほど高くない。
時々聞こえる鶏の鳴く声や、窓から見える市場の様子に、1日の始まりを感じる。
身支度をしよう。
そう思って着替えを始めると、ドアがノックされた。
「クレア様、朝のお支度のお手伝いをさせていただきます。失礼致します。」
そう言ってメイドの女性が入ってきた。
年の頃は私より少し年上か。
まだ若く、可愛らしい顔立ちの柔らかい雰囲気の彼女に、親しみを覚えた。
「ありがとうございます。着替えなどは自分でできるので大丈夫ですよ。それより、少し話し相手になってはくださいませんか?」
そうお願いすると、少し戸惑って頷く。
「本来はお召し替えのお手伝いをすべきところなのですが、ご命令とあらば私で良ければご対応させて頂きます。」
しっかりとメイドとして躾けられているのだろう。
命令だなんて。
ただ私には友達と呼べる存在がいないため、同性の同じ年頃の方と接する機会が無いので会話を楽しんでみたいと思ったのだが。
「命令だなんて思わず、気楽にお話をさせて頂きたいのです。まずはお名前を教えて頂けますか?私はクレア・ディアス。ゴールドガーデンの領主です。が、本当はただの町娘のようなものです。令嬢としての教育も受けていませんし、食料を栽培するところから調理までなど、身の回りのことは全て自身で賄ってきたような野性味溢れる15歳です。」
そう自己紹介すると、一瞬きょとんとして、次の瞬間には笑ってくださった。
「クレア様、野性味溢れるだなんて…美しいお顔でそのようなご発言のギャップに衝撃を受けました。笑ってしまってすみません。大変ご無礼を承知しておりますが、クレア様が想像していたご令嬢と違い、安心いたしました。」
そんなに笑って、しかも想像と違って安心?私のイメージは一体どのようなものだったのだろう?
「私のイメージはどのようなものだったのでしょうか?安心ということは少なくとも実物の方が好印象であると捉えてよろしいのですか?」
疑問はそのまま口にして聞いてみる主義の私は、まだ名前も知らない彼女へ問う。
「失礼致しました。私の名前はエレナと申します。どうぞ『エレナ』とお気軽にお呼びください。王都の商工会会長の娘で、父は私を王城の女中として行儀見習いを兼ねて家を出したのですが、私元々お転婆と名高く、未だに塀は登りたくなりますし、庭を走りたくなりますし、大きな声で歌い出したくなるようなまだまだお嫁へは行けないじゃじゃ馬でして父を困らせております。年はクレア様と近く、18です。そろそろ縁談をと父も考えるものの、私がまだまだ淑女の嗜みを修得しておりませんのでよく嘆いております。
クレア様のイメージは…やはりお顔立ちはもちろん、所作もお美しいため深窓の令嬢そのもののイメージでございました。親しみやすいご発言に私も緊張がほぐれ、こうしてお話ができることを嬉しく思います。」
そう言ってふわりと笑うエレナはとても可愛らしい。
「私、お友達が居ないのです。エレナ、私とお友達にはなって頂けないでしょうか?」
私からの依頼に戸惑う彼女は小動物のようだ。




