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あっという間に時は過ぎ、昼前。
領地へ戻るための出発時刻となった。
お言葉通り、殿下は見送りにいらしてくださった。
「クレア、例の件はよく考えてからの返事で良いからな。決して思い悩んだり、無理をしたりはするなよ。そなたが壮健で幸せに過ごすことこそ私が望んでいることだからな。」
そう言って優しく見送ってくださった。
「クレア、さっきよりも覇気のある顔をしているわね。セドリック様からのアドバイスが良かったのね。」
エレナも私の表情から、先ほどと違って少し余裕が出てきたことに安心したようだ。
「ええ。セドリック様からのアドバイスはとても今後の参考になったわ。エレナと同じことをおっしゃってたわよ。私がもしお断りしても、殿下のその後の人生は殿下の責任だから私が気にすることでは無いと。」
エレナはうれしそうだ。
「そうよ。クレアは考えすぎるのよ。本人がそれからのことは決めていくんだから、クレアがその後までの責任を負うことはないの。あとはあなたがどう結論づけても、殿下もあなたも納得できる結果になるのが1番よね。」
「そうね。ありがとう。よくよく考えるわ。オリバー殿とも相談してみる。」
この話題はそれで終わり、行きの馬車でも話題になったパーティーでのご令嬢たちの装いの話になった。
「やっぱりみんな頭が重そうだったわよね。独身のご令嬢は皆様そうだったもの。既婚の方は普通のヘアスタイルだったけど。やっぱりみんなクレアのドレスやアクセサリーが気になったみたいよ。ダンスしながら揺れるアクセサリーたちに興味津々で、こそこそ噂されてたもの。『あの髪飾りダンスの動きに合わせて揺れるなんて素敵』って。もうね、これはクレアのあの装いがこれからの流行になるのは間違いないわよ。殿下のお気に入りだし、あなたに取り入ろうとする方も絶対増えるもの。」
「むしろ悪い噂として広められるのではと心配よ。婚約解消したばかりなのに、事もあろうに王太子殿下に求婚されるわ、3曲も踊るわ。とんだ尻軽だとかって言われそうでビクビクしてるのよ。」
そう言うとエレナは大笑いだ。
「まぁ陰ではわからないわよ。でも今後はクレアに近づいてくるご令嬢も多いはずよ。あわよくば殿下とお近づきになれるから。これからお茶会のお誘いが間違いなく増えるわ。あなたと懇意にすることで、殿下へ近づいたり、あなたが今後王太子妃となっても、妃殿下の友人という肩書きができるから。縁談をお断りしても、あなたに近いところなら殿下に見初められる可能性があると期待するでしょうからね。どう転んでもクレアはこれからお付き合いをよく考えて選ばなければならないわ。中途半端に仲良くなると『クレア様のお友達』がたくさん増えて、好き勝手あなたの名前が使われるわ。」
なんて恐ろしい。
そういう見方もあるのだな。
社交界って面倒が多いのだと改めて感じた。




