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「まさか、殿下のことを嫌うなどと言うことは決してございません。殿下はいつもお優しいですし、辛い時も支えて下さいました。ご恩ばかりがございます。」
嫌いだなんて。
少し強引だなとは思うけれど、それで嫌悪感や殿下へのイメージダウンは無い。
「じゃあねえ、君は彼を嫌いじゃ無い。むしろ好意的なら、好きになるかもしれない。1年の時間は彼のチャンスだし、君が結果断っても無駄では無いんだよ。実らないのは彼の努力が足りなかったか、努力の方向性が間違ってるかだから君の気に病むことではない。君の言うようにやれることをやり尽くすことが肝要だ。あとはね、君の身分についてだけど、パーティーでも言ったよね。私がいつでも後ろ盾になるつもりだ。後ろ盾というだけで周りが納得しないならば、あの時伝えたように養女として迎えよう。それから妃教育を受けてもまだまだ間に合うだろう。君はまだ15歳だ。1年後も16歳。縁談については君の結論で決めて良いし、受けてくれるなら君の思い悩む事柄は今伝えたことで解決できないかな。あとは領地のことだけだ。断るならそれはそれ。彼の顔に泥を塗るとか、国の未来がとか、余計なことは考えなくて良いよ。後のことは彼の人生なのだから。彼が考えるよ。あいつもまだ22だ。1年待っても23となるだけ。まだまだひよっこだ。」
セドリック様からのご提案により、お受けするにしろ、お断りするにしろ、私の気持ちを優先して良いという結論に至った。
「セドリック様、本日はお忙しい中早朝よりご対応ありがとうございました。セドリック様からのお言葉のおかげでなんだか肩の荷が降りるまでは無くとも軽くなりました。本当にありがとうございます。」
感謝を伝えると、セドリック様は微笑んで私の頭を撫でた。
「アーノルドの面影を感じるよ。彼は私の心からの親友だ。私が勉強も武芸も腐らず努力できたのは彼のおかげだ。君にできることは何でもしてあげたい。もちろん君を娘にしたい下心がまだあるからね。養女とするのはむしろ大歓迎なんだ。あまり気負うな。」
そう言って笑顔でお仕事へ向かわれた。
私の中での方針は、お返事は1年お待ち頂き、その間に殿下のことを知っていく。1年後に結論を出し、縁談をお受けするか、お断りするか決める。
これをオリバー殿とも相談して、正式にそれで良ければそのようにお返事しようと思う。
見送りの際にはこれはまだ伝えない。
決まりだ。
殿下の人物像が私の中でどう変わるのか。
まずは殿下のことをよく知ることから始めよう。
お互いを知らないままには結論を出せない。
まずは殿下を知ろう。
私の中の殿下だけでなく、他の方から見た殿下も。
それに、ゴールドガーデンや王国の未来も考えてみよう。その未来に私はどこにいて、何をしているのか。




