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「クレアは殿下のことをどう考えているの?あなたの気持ちじゃなくて、殿下のお人柄をどう捉えているの?」
殿下のお人柄か。
「そうね、思いやりがあって、優しくて、頼りになる方だわ。だからあの方が国を治めることに何の不安もないし、臣下としてできる忠義を尽くそうと信頼できるわ。」
エレナは次の質問をする。
「そう。お人柄は素晴らしいと感じているのね。ところで、この間殿下とも交流があったわけだけど、あなたと殿下の間柄は一言で言うなら何だと思う?」
中々難しい。
「『王族と臣下』かしら?友人と言うには不敬だし。」
「そうね、友人と言う方が適切でしょうけどね。普通王族でもただの臣下にここまで色々と配慮したり、胸を貸すなんてことはしないわ。」
「じゃあ仮に畏れ多くも友人ということにするとして。」
殿下を友人だなんて、何だか落ち着かない。
「じゃあね、クレア。もし殿下が普通の一般人で、あなたもただの田舎の娘だとしたら?その前提でならどう?」
地位などを考慮しなければ、たしかに『友人』だろう。
「それなら友人と言うのがしっくりくるわね。」
「ところで、クレアは男女の友情って成立すると思う?恋愛感情なしで、友情は続くと思う?」
そんなこと私にわかるはずがない。
物語でしか恋愛なんて知らないもの。
「あくまでも物語での話しだけれど、私が読んだ本には、男女で親友だった人たちはみんな結婚してハッピーエンドっていうのが多かったわ。でもまれにそういう例外もあり得るとは思うわ。」
一般論ですらない、物語という世界でのこと。
「じゃあクレアと殿下の間に恋愛感情が芽生えるのは別に不思議じゃないわね。」
そう言われるとそうかもしれないが…。
「でも私は殿下に対してそんな感情はないわ。今はただ、友情に近いものと、尊敬の念しかないわ。」
「そうね。人の気持ちって不思議よね。同じ時に同じ気持ちを抱くとは限らない。恋愛感情なんていつ芽生えるのか、いつ自覚するのかなんてそれぞれよ。クレアはこの先、殿下を友情や尊敬以外の気持ちを持たずにいる可能性と、あなたを想って接する殿下に対して、同じ気持ちを抱く可能性。どっちが高いかしらね。」
同じようなことを昨日殿下に言われた。
「エレナ。昨日の夜ね、殿下が部屋を訪ねて来られたのよ。そこでも言われたわ。私が殿下をお慕いする可能性が0ではないのなら、1年でも2年でも待つって。わからないとしか言えなかったわ。哲学にもあるように、世の中には『絶対は絶対にない』のだもの。」
「そう。クレアは結婚とかの話は置いといて、今後の人生をどうすごしたいの?」
考えたことも無かった。
今後行う施策についてや、ゴールドガーデンの未来は考えても、自分のことなんて。




