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「ディアス卿、本日は誠におめでとうございます。お噂はかねがね伺っております。」
「クレア様、私クレア様にお会いするのを楽しみにしておりましたの。」
「領地の運営について参考にさせていただきたいことがございまして」
色んな人に話しかけられて、誰がどこのどんな役職の方なのかを整理しながらそれぞれに対応をしていく。
テッドもゴールドガーデンの政策について意見を求められているようで、座っているテッドの姿は最早見えなかった。
エレナも私の後ろに控え、飲み物を持って来てくれたりしている。
歓談のひと時を過ごし、舞踏会が始まる。
王室の楽団の音楽の音色はどのようなものだろう。
間違いなく一流で、耳に心地良いに違いないと期待が高まる。
しかし、忘れていた。
今日の主役は私。
ダンスに誘われるのは必至なのだ。
婚約も解消しているし、そもそもの婚約者だったテッドは怪我で踊れないため、私の最初のダンスの相手にと、男性たちが私の周りに集まり始めた。
突然、人の波が2つに割れた。
その先を見ると、やはりいらっしゃるのはマーティン王太子殿下であった。
ゆっくりと歩を進め、その動向を多くの人々が見守っている。
正直目立ちたくないのだが、主役である以上は目立ってしまうのだ。
「クレア・ディアス嬢、どうかあなたと初めに踊る栄誉を私に頂けないだろうか?」
そう言って殿下は私に手を差し出し、軽く膝をつく。
まぁ初めてお会いする殿方よりは、殿下の方が安心できると言えばそうなのだが、殿下のゴシップにならないか非常に心配ではある。
しかし、お断りするのは殿下に対して失礼だ。
断ることはできない。
「はい、喜んで。」
そう言って殿下の手を取り、フロアの中央へ進む。
誰も踊り始めない。
みんなが私と殿下を見つめている。
ダンスの練習も重ねて来た。
ダンスをしていれば難しい話をすることも、愛想笑いをすることも、周囲にずっと気を遣うことからもしばらく解放される。
やはり王室お抱えの楽団。
優しい音色のワルツに、とても気持ちよく踊ることができる。
藤の花を模した髪飾りが、ダンスに合わせて揺れる。
藤色のドレスのスカートの裾も、動きに合わせて揺れる。
きっと、エレナの言う通り風に揺れるウィステリアのようなイメージだろう。
踊る自分を客観的にイメージし、優雅に揺れることを考えていると、段々と楽しくなってしまった。
あっという間に1曲おわり、次の曲が始まろうとしている。
次の曲のダンスを申し込もうとしていらっしゃる殿方を無視するかのように、殿下が私の手を離さずに腰に手を回す。
そういえば以前のパーティーでも2曲踊ったような…と考えていると、そのまま流されてしまい再び殿下と踊る。
流石に次はないだろうと、2曲目も楽しんだ。
周りの大きな花飾りのご令嬢たちのも、それぞれにペアを組んで参加して来た。
やはり大きな花は不安定なようで、ターンなどで落ちそうになっているご令嬢や、落としてしまったご令嬢が続出している。
予想通りだ。
それに、重すぎて髪が抜けたり傷んだりしそうだなと思う。




