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「私、明日を楽しむわ。私らしく輝けるように。みんなに恥じることの無いように。」
エレナの手を握りながら、決意を伝える。
「良い日になるように、私も全力を尽くすわ。クレアは明日のためにマナーやダンスの練習も、仕事も、何もかも手を抜かずに頑張ってるもの。クレアのカーテシーは誰よりも素敵よ。ダンスだってそう。ウィステリアが風で揺れ動くように、そんなイメージのドレスがよく似合う優雅なダンスを踊れるのだから。あとはあなたが笑顔でさえいられれば問題ないわ。」
2人で笑いあって楽しくお茶をし、早めに寝ようということでいつもより早く仕事を切り上げた。
翌日を思うと中々寝付けない。
久しぶりに物語を読んでみるが、読みはじめると続きが気になって余計眠れなくなってしまった。
諦めて本を読むことにした。
『ブーゲンビリアの聖女』という物語だ。
魔法が使える世界という設定で、出てくる人も、地名も皆花の名前が付いている話。
国名が正にブーゲンビリアという国で、主人公は双子の少女たち。伯爵家の令嬢として育ち、魔法を駆使して悪と戦ったり、恋をしたり。
ワクワクしながら読み進めた。
2人ともエリート一家の伯爵家に生まれ、貴族社会に育ち、学園に通って青春を過ごしている。
私たちの世界とは違うということが大きいにしても、私と同じくらいの年頃でも日常生活も、背負うものも、色々と違う。
生きる世界や国、家、その他個人の条件によって人生が異なる。条件がほぼ同じな双子でも、異なる人生を歩むのだ。
自分で人生を切り拓く物語が多いが、自分で人生を拓ける人間がどれほどいるのだろう。
私も周りの人々のお膳立てがあってこその今のチャンスを与えられた状態だ。
私だけの力では何もできず、下手したら死んでいたかもしれない。
自己責任だけでは生まれによって今後の人生が決まるようなものだ。
誰にでも、努力によって自身の人生が拓けるような社会を作りたいと改めて思う。
物語の彼女たちも、己の人生の要所に選択肢があり、自身で選択していた。
選択肢を用意することが領主として私にできる仕事だ。
今はまだ職業についてのみではあるが、少しでも領民へ選択肢を用意して、それぞれが選択してより自身の人生を豊かにできるように支援したい。
チャンスは誰にでも与えられるべきだ。
一本道をただ歩くのは味気ない。
誰もが物語の主人公となり得るのだから。
明日をきっかけに、これからの私の成すべきことなどを改めて見直そう。
私を取り巻く環境も変わっていくのだから。
テッドも近いうちに旅に出てしまうし、それに伴い皆も私から離れていくかもしれない。
爵位を得たことで貴族間の関係性も多少変化がある。
これからのことは皆ともよくよく話し合いながら進めていこう。
決意を抱きながら眠りについた。




