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全てつつがなく準備を進めた叙爵式前日。
明日は早くから馬車で移動し、昼頃王都へ到着する。
午後は国王陛下へ謁見し、ご挨拶等をさせていただく。
夕方に叙爵式を行い、夜はパーティーだ。
めまぐるしい1日が待っている。
明後日領地へ戻り、婚約破棄も領内外へ通達する。
テッドの復帰を心待ちにしているの方々はどう思うだろう。
きっとがっかりどころではないだろう。
私が追い出したと責められるのだろうか。
それはそれで構わない。
私は償いをしなければならないのだから。
私以上に慌ただしく仕事をしている者がいる。
…エレナだ。
回遊魚なのかと疑いたくなるほど、なぜか休まず動き続けている。
あまりにも動きを止めないため心配になる。
「エレナ、少し早いけれど、お茶にしましょう。ご一緒してくださる?明日に向けて緊張するのよ。」
そう声をかけると、忙しそうに応じてくれる。
「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
そしてお茶や菓子の乗ったワゴンを運んで、執務室に持ってきてくれる。
「エレナ、あなたも休憩して一緒にお茶をしましょう。本当に緊張するのよね。一緒にいて?」
改めてそう言うと、エレナはふぅとため息をついた。
「ごめんなさいね、忙しいのに。」
なんだか申し訳なくなってきた。
余計なお世話だっただろうか。
「違うのよ、私の方が緊張していたの。じっとしていられなくて。支度も完璧に整えよう、クレアに安心して明日を迎えてもらおうと気を張っていたのよ。お茶に誘ってもらえて良かったわ。こちらこそありがとう。」
忙しいのはもちろんだが、エレナがそんなに気を遣ってくれていたなんて。
有難いと改めて思う。
「本当にありがとう。エレナ、あなたが明日体調不良にでもなると心細いわ。休みながら適度に仕事をして、無理はしないでね。」
ふふふと笑いながら、エレナは頷く。
「クレア、あなたってあなたが思う以上に魅力的で美しいのよ。明日はあなたが主役よ。いつも以上にあなたが輝けるようにサポートしたいの。あなたが他の貴族に見劣りしたり、侮られたりするようなことがあってはならないと思っているの。あなたは例え裸でも魅力的よ。でも身に付けるもの1つで品位が下がらないように、髪型でも何でもそうよ。あなたの価値を下げてしまわないようにしたいの。私が誰よりも輝くクレアを見たいの。胸を張って、輝くあなたを。『この方こそ私たちの主人よ!この人が私の親友よ!』って大声で叫びたいくらいに嬉しいのよ。だから無理なんてしてないわ。」
エレナの言葉に涙ぐんでしまう。
エレナがそれほどまでに私を思い、明日を楽しみにしてくれていたのだ。
何としてもエレナに報いるよう明日は頑張ろう。
エレナだけでない。
テッドにも、オリバー殿やクエンティン殿、その他にも明日を楽しみに応援してくれる皆様へ報いることができるように。




