127
叙爵式の私のドレスは、薄い藤色のシンプルなドレスだ。
Aラインのデザインで、フリルや装飾は出来るだけ抑え、その分素材にこだわっている。
質素なデザインながらも良質な生地に、物の良さがわかる方には良いものだと認めていただけるようなできだ。
靴も紫色で、割と濃い色のため目を引く。
イヤリングと首飾りはアメジストで藤の花をイメージしているデザイン。
エレナはドレスとアクセサリーの出来栄えがイメージ通りと、私よりも満足気である。
エレナは私よりもいくらかグレードが下がるものだが、城に上がっても失礼のない質の良いものを用意している。
紺地に要所要所で藤色を取り入れたデザインのメイド服だ。
「クレア様、ウィステリア(藤)をイメージしたのには理由があります。花言葉が『確固たる、しっかりした、忠実』という意味ですので、今後の領地経営についての確固たる信念と、王家にも職務にも忠実であることを表しています。クレア様の白い肌にも映えてより美しく見えますし、紫は格の高い色です。真の紫ですと最高位の色ですので、あえて藤色の更に少し淡い色味で作らせました。私の衣装にも要所に同じ色を取り入れることで、私がクレア様付きであることがわかるようにしています。」
植物に詳しいエレナらしく、花言葉などからもデザインの選定をしてくれたらしい。
私は着られれば失礼のないものなら何でも良いという無頓着さなので、このように服装にすら意味を持たせるというのはさすがだなと感心する。
男性陣は漆黒の燕尾服に、藤色のハンカチと、タイピンやカフスボタンも小さな藤の花を象っている。
クエンティン殿も同様なデザインだが、付き人ということでテッドより少しグレードが下がるものを仕立てている。
エレナ曰く、アクセサリーはゴールドガーデンの花をイメージしようと思ったそうだが、デザインが合わないことや、花言葉があまり叙爵式にそぐわないと断念したそうだ。
ゴールドガーデンの花言葉は、『魅了、永遠の愛、美しさ』だそうだ。
確かにそぐわない。
ましてや婚約破棄をご報告するのに、永遠の愛は無い。
式の主役とはいえ、魅了や美しさというのも当然合わない。
やはり、エレナに任せて良かった。
ダンスの練習も行い、式後のパーティー対策も万全だ。
ダンスは元々得意だと思っている。
踊る相手が居ないながらも、ひとりぼっちの暇つぶしにステップの練習を重ねては物語の舞踏会の世界を想像していた。
テッドは当然、足の具合がまだ短距離歩行レベルのためダンスはせず、椅子に掛けて過ごすことにしている。
私が外交的にも会話だけでなくその他もしっかりと動かなければならない。
マナーの練習も欠かさない。
カーテシーも実際にドレスを着て練習している。
完璧に過ごすのだ。
『新参の若造、マナーのない小娘』などの批判の無いように。
爵位に恥じぬ貴族らしい振る舞いと、ゴールドガーデンの名を背負っている自覚を持って、完璧に。




