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テッドは静かに首を振る。
「クレア様、私はクーデターのリーダーの息子に過ぎません。クーデターが成功したとて、こちら側が領主となる道理はありません。あなたは正当なディアス家の直系のお血筋です。このまま領主としてこの地を治るのに何の不都合がございましょうか。領民たちもあなた様を慕い、敬っております。あなたが領主の座を退いた方が領民たちは不安になるでしょう。」
「いえ、私が気ままにハーブ園で仕事をして過ごしたいというのもあります。仮にあなたがここを去るのならば、その後はどうなさるのですか?」
テッドはその後も考えた上で言っているのだろうか。
「わかりません。私にできることを探して旅でもしようかと思います。父上はこのままここでクレア様をお支えください。私は1人で生きる道を探します。」
今まで静かに成り行きを見守っていたオリバー殿がようやく口を開く。
「テッド、このままここで皆で過ごす道はあり得ないのか?」
「ない。私は不甲斐ない自分と決別したいのです。このままここで過ごすことは甘えです。いつまでも情けない自分を思い出し、後悔し続けるでしょう。新たな人生を歩み、誰かに必要とされ、誰かの役に立つ。そんな生き方を自分で見つけたいのです。」
きっぱりと迷わずにそう言うと、オリバー殿もため息をついた。
「お前がそう言うのならそうしたら良い。その代わり、お前も男だ。二言はあるまい。何があっても、自分の身を立てるまではここに戻るな。俺はお前を助けはしない。自分で生きるとはそう言うことだ。」
「もちろんだ。私は父上を頼るつもりは毛頭ない。その覚悟はしている。今まで貯めていた資金で旅をする。金銭面も何もかも、自分でどうにかして生きていく。もちろん、悪事は働かないと誓う。いつか、何かの形でゴールドガーデンの役に立てるように身を立てていく。クレア様もご理解頂けますか?」
理解はするが、同意できるかは別物だ。
「オリバー殿はいかがお考えでしょうか。父としてではなく、ゴールドガーデンのためにどうするのが最善であるかをお考えの頂いてお答えください。どうするのがよりゴールドガーデンの混乱を防ぐことができるのか。私はそれでオリバー殿が領主となるというのも1つの手かとは思っています。私もハーブ園ではなくどこかへ政略結婚という形でここから出ることもいといませんよ。」
オリバー殿は考え込む。
どのくらいの時が経っただろうか。
静かな部屋に、3人のため息の音ばかりが聞こえる。
「ゴールドガーデンはこのままクレア様が領主として治めてください。テッドは体の傷が癒えたら勘当いたします。同時に婚約破棄については公表いたしましょう。それまでは内密に。」
思い切った結論に驚く。
「オリバー殿、何も勘当までせずとも良いのではございませんか?そちらは私も承服し兼ねます。」
しかし、この親子の決意は堅い。
いくら何と言おうとそれは変わらなかった。




