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「クレア様失礼致します。お夕食をお持ちいたしました。」
エレナが2人分の夕食を運んで来てくれた。
「ありがとう。それじゃあここからは仕事の時間終わりってことで。って言っても仕事の話をするのだけどね。対等に話をするということで。」
「ええ、わかったわ。」
エレナと食事を楽しみつつ、話を切り出す。
「ハーブ園の規模を拡大する際の移転地なのだけれど、アザレア村の川の近くに空き地があるのよ。そこなら広さだとか条件も悪く無いと思うの。アザレア村は元々農業向けの土地だし、申し分ないと思うのだけど、どうかしら。」
地図をじっと見ながら、エレナは言う。
「せっかく良い土があるのなら、農業用に開墾すべきだわ。ハーブ園はね、温室みたいにしていくつもりなのよ。土は手入れをするときに毎回作るの。だから条件良い土である必要はないわ。農家へ土地を斡旋してあげたほうが領内の収益につながるんじゃない?」
確かに。
土作りからしていくならば元々の土が必ずしも良質で
ある必要はない。
もちろん良いに越したことはないが。
「そうね、貸農地として農家に提供して、その分作物をいくらか納めてもらえば良いかも。いずれやる喫茶店のメニューになるようなものの材料を栽培してもらえば売りに行く手間が省けて良いかも。店で買い取れば良いのだものね。」
エレナの提案に乗る形で話を進めて行く。
「中々土地を持てない小作人もいるでしょう?そういう人たちの働き口として領の直営ってことで農地も運営すれば、働きたい農家の人たちの雇用にもなるし、城の食材でも喫茶店の食材でも、なんなら野菜の直営店を出しても良いと思うの。そこの生産状況を見れば、領内のある程度の収穫についても予測がつけやすいでしょうし。アザレア村が豊作なら、他の村は何割減くらいで…って。」
エレナも更に具体的に意見を出してくれる。
領のことをしっかり考えてくれるあたりが、エレナの覚悟と信念を感じる。
プロフェッショナルだなと感心してしまう。
私なんてただただ、ハーブ園が軌道に乗るように運営することしか考えていなかった。
「エレナはどの辺が良いと思うの?」
まだどの村がどんな土であるかや、農業に向いているかなどもわからないかもしれないが、エレナはわからなければわからないと言ってくれる。ある程度の情報収集はしているだろう。
「そうね、城からは少し離れるのだけど、ビオラ村なんてどうかしら。ここからは馬で15分くらいと聞いたわ。日当たりは良くて、川ではないけど、ビオラ湖があるし。地図でいうとこの辺りなら広さも十分よね。土は少し固くて、岩も多いからあまり農業向けではないみたいだけど、土はさっきも言ったけど、作るから。湖があるってことはね、きっと景観も良いはずよ。湖のほとりに店を作れば良いと思うのよ。アザレア村からもこの場所なら馬車で10分で着くわ。作物を運んでもらうにも十分余裕のある場所だわ。ここに何か工場だとか何か作るのでなければ、私はここにして欲しいわ。」
湖のほとり。
なんて素敵なことを考えるのだ。




