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静寂と沈黙の彼方の喧騒  作者: あい。
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書類を作り終わるとちょうど日も暮れて、薄暗くなってきた頃だった。


ランプを付けると、オレンジの光が温かく部屋を照らす。


陽炎を眺めていると、なんだかこの静かな空間の歪みを炎が照らしているようで不思議な感覚になる。

ほんのりと黒いすすが立ち昇りながら、空間を歪める。

日暮れと共に、静かな時間が歪んだ空間を際立たせるようだ。


私の生きてきた時間のなんと歪なものだったことか。

陽炎の中に思い出が浮かび上がる。

やはり父母の顔は思い出せないが、楽しい思い出。

突然いなくなって、家族が無くなって、孤独感に包まれた思い出。

やがて完全な孤独に絶望した思い出。

生きるのに必死だった思い出。

物語の主人公になった気持ちでたまに読む本の中の思い出。

そして最近の、友が出来た幸せな気持ち。

オリバー殿やテッドと家族のように過ごす城の生活。

殿下のぬくもり。

良い思い出が増えていると実感する。

もちろん最近でも誘拐事件などの悪いこともあった。

しかし、私はきっと幸せな人間だ。

人のために過ごせて、人の役に立てる仕事ができる。

そして、支えてくれる仲間がいて、友がいる。


現在の幸せを感じ、考える時間がたまに突然出てくるのだが、決まって静かに1人でいる時に訪れる。

思い出と共に、今の賑やかな暮らしに繋がる。


それもいつまで続くのかと不安になるがゆえに、そういったことを考えてしまうのかも知れない。


子どもの頃に知った幸せより、今知ってしまった幸せが多分大きいのだろう。

この幸せよりも、この先ではもっと大きな幸せが存在するのだろうか。

それとも今がピークで、これからはまた孤独と静寂の中に戻らねばならないのだろうか。


せめて私の周りに居てくれる人たちが幸せであることを願う。

今も、この先も。


「クレア様、失礼致します。」


ノックの音とともに、エレナの呼ぶ声が聞こえた。

仕事モードの時は敬語で、「様」を付けているため、私はなんだか変な感じがするが、エレナはきちんと使い分けている。


「どうぞお入りになって。」


返事をすると、エレナが夕食について尋ねる。


「お夕食はどちらで召し上がりますか?」


執務室、私室、食堂の3択で、仕事の状況によって変えているため毎日こうして尋ねてくれる。


「今日はここで頂くわ。エレナ、手が空いたらハーブ園についての書類に目を通して欲しいのだけど。急がないわ。今日でなくて大丈夫よ。ただ、ハーブ園の移転先についての意見は今日聞きたいの。夕食前に話せる?」


用件を確認すると、エレナも頷く。


「かしこまりました。お夕食はこちらへお持ちいたします。お食事前でなくとも、いつでも問題ございません。食後のお茶をお持ちしてからゆっくりうかがいましょうか。」


「それではエレナの仕事が終わるのが遅くなってしまうわ。私の食事はいつでも大丈夫よ。」


慌ててそう言うと、エレナはふっと優しく笑う。


「いいえ、仕事後に友人としてお茶をしにお邪魔させて頂こうかと。よろしいですか?」


城の客室をエレナに使ってもらっているため、暗い夜道を歩いて帰るという心配はない。

が、エレナも1日中仕事をしているのだ。

ゆっくりと休むべきだと思うのだが。


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