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エレナも殿下も私を心配してくださってのこととはわかっているが、2人の手をわずらわせるのは私にとって不本意だし、あまりにも風通しの良すぎる関係ならば、心から色々な相談などの話しをできなくなってしまう。
「ごめんね、クレア。ただ、殿下はあなたのことを何よりも気にかけていらっしゃるわ。あなたの様子だけで良いから、たまに知らせてと頼まれてしまって。余計なことは色々と言うつもりはないし、あくまでもクレアが元気になってきたことをお伝えして、安心して頂けたらと思ったのよ。もうしないわ。その代わり、あなたが直接殿下には定期的にお手紙を出してちょうだいね。あなたの安否がわからないと、こちらに乗り込んで来かねないわよ。」
なるほど。
便りがなければなおさら殿下の手をわずらわせる結果になるのか。
わざわざこんなところまでお越しいただくよりはお手紙を出して安否をご報告した方がお互いに良い。
「エレナ、色々と気を回してくれてありがとう。これからは自分でお手紙を出すわ。その方が殿下もご安心なさるでしょうから。」
殿下が私にご執心なことが問題なのだ。
だからこうしてエレナも気を遣ってくれている。
民思いの良い王子様であるが、いくらお断りしても私が身を固めなければきっとこのまま私のことを気にしてしまうのだろう。
テッドとの婚約破棄なんてことが知られたら、それこそ正式に求婚されかねない。
しかし、私は殿下のもとに逃げるような結果にしたくない。
私が王家に嫁げば、ゴールドガーデンにも何かと有利なのはわかっているが、私のけじめをつけるという意味では全く意味がない。
私ばかり楽な道を、幸せな道を進んではいけない。
もちろん、王太子妃というのは楽でないことは重々承知だ。
ギリギリまで婚約破棄の件は内密にして、私の今後までしっかり決めてからの発表にしよう。
「さて、仕事に戻りましょう。もう少しで日が暮れるわ。」
「じゃあ私は一旦庭に行くわね。何かあったら使いを寄越して。」
「エレナも無理しちゃダメよ。何かあれば知らせてね。」
そして仕事の続きだ。
今日の会議の報告書は書記が持って来たら承認して、各村へ通達させる。
私のやることは、会議で承認されたハーブ園の立ち上げの計画書を兼ねた設立の申請書の作成だ。
人員や予算をざっくりと見積もり、今後の事業展開の方針を示していく。
今後の移転先の候補地もあたりをつけよう。
条件は①この城から遠くないこと②水場も近いこと③加工業者ともやりとりしやすい立地であること④流通のことを考え、主要な道路へのアクセスがスムーズなこと⑤作物の栽培が可能な土地であること。
他は挙げればキリがないが、これらは大事かと思うが、合致する土地が見当たらなければ、妥協していく。
道路は後から整備できるし、水場も水路を引くこともできる。エレナが城の仕事と両立するための①、ハーブを育てる最低限の条件の⑤、これは外せない。




