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頬の痛みを感じながらも、心に温かく響いてくる。
「そうね。テッドは優しいの。私が不幸せそうだと余計に自分を責めかねないわね。私が楽しそうに笑えたら、テッドも笑ってくれるかしら?」
エレナの手が今度は頬を包む。
「当たり前よ。あなたたち婚約している仲でしょ。だからこそ今回みたいにエドワード様はクレアを守りきれなかったことを悔やんでいるわ。あなたがすっかり立ち直って、楽しそうに幸せそうに過ごしていれば、エドワード様だって結果オーライで立ち直れるきっかけにはなるんじゃないかしら。まあ旅行に行く・行かないによらず、『クレアが幸せに過ごせている』ってことが大事よ。」
「毎回思うのだけど、エレナの言葉ってすごく心に響くわ。考え方も私では考えもつかない結論に導いてくれるのだもの。目からウロコっていうのがぴったりな心境よ。」
私がそう言うと、エレナは視線を落とした。
「まぁ私の意見でもありはするのだけど。…実はね、クレアの様子やエドワード様のご様子などをマーティン殿下に報告のお手紙を出したの。クレアに手紙が届いたでしょう。私にも返書が届いたのよ。それにも同じように書いてあったわ。クレアが幸せでいられることが、ゴールドガーデンの幸せだとね。少しでもクレアが笑顔でいられるように支えてやってくれって。もちろん言われなくったってそのつもりだけどね。殿下はクレアの幸せも、ゴールドガーデンの繁栄も、恋敵のエドワード様の幸せも考えてくださっているわ。」
エレナの言葉に驚いてしまう。
エレナが殿下に私たちのことを報告している?
どこまで?
一から十まで?
根掘り葉掘り?
流石にエレナのことだから分別はあるはず。
施策などの情報は流していないだろうけど。
私の考えを察したようで、エレナは慌てて付け加える。
「報告って別に大したことじゃないのよ?クレアが少しずつ笑顔が増えてきたとか、試験の準備とかで忙しくて中々ゆっくり休んでいないようだとか、エドワード様のことも同じよ。全身的に骨折とかでしばらく政務から離れて療養が必要な状態で、クレアがとても心をいためていることとか、そのくらいで、領内の機密や関係者の詳細とかは報告してないわよ。」
「もちろんそこは信じているわよ。エレナは分別のある女性だとわかっているからこそ色々と相談しているのだから。」
一応エレナに婚約破棄については詳しく話さない方が良いかなどと考えてしまう。
エレナへも、殿下へも余計な心配はかけないように。
「エレナ、心配してくれてありがとう。でも殿下のお手をわずらわせたりしてしまうのも良くないわ。これからは私のことやテッドのことの報告は殿下へは知らせないで。殿下にご心配頂くのはありがたいのだけど、申し訳ないわ。」




