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「元々実家にそれほど戻って居なかったのよ。だって帰るといつも『見合いはどうだ?』って勧められるのよ。めんどくさくなっちゃって。だからあんまり帰りたくないのが本音よ。」
世の中の親子関係は色々複雑なのだなと考えていると、エレナは笑う。
「クレア、私と夏休みしましょうよ!クレアだって連休があっても良いでしょう?王都の私の実家に一緒に来るでも良いし、旅行でも良いじゃない?どう?」
考えたことも無かった。
私のやるべきことを成し遂げるためには、むしろ1日でも無駄にしないようにと考えているくらいだ。
考えてもみなかった提案に心が揺れる。
とても楽しいだろう。
仕事以外の有意義な時間が持てることは、間違いなく私にとってプラスだ。
でも、私ばかり楽しく過ごすわけにはいかない。
テッドだって今後スムーズに復帰できるとも限らないのだから。
「クーレーアー?また難しく考えてるでしょう?旅行したいの?したくないの?」
私の頬を両手で押さえるようにしながら聞いてきた。
それはもちろん『行きたい』。
でも私のわがままで私ばかり楽しんではいけない。
「行きひゃいれす。れも…」
頬を押さえられているため滑舌が悪いが、そう答えると、エレナはなおさら強く頬を押さえる。
「じゃあそうしましょう!良い?あなたが例えば3日旅行に行くとしてよ?3日間楽しく過ごせるの。逆に、3日間仕事漬けだとして。3日で何ができるの?何か変わるの?」
3日ではまぁ書類が片付けられる程度だろうか。
何か施策を実施するにも、検討したり、会議での承認が必要であるため何も出来ない。
が、その調整や準備は進められる。
しかし、それほど急務で急がねばならないような施策は今の所ない。
となれば答えは
「3日じゃそれほろかわりまひぇん。」
「じゃあ、3日あなたが楽しく有意義な時間を過ごせたら?4日後のあなたはどういう気持ち?」
中々難しい質問だ。
おそらく、楽しさの余韻に浸りながら、また意欲的にまじめに執務に取り組んでいけるだろう。
現実とのギャップについていけずに、やる気が出ない可能性も否めない。
ただ、大切な友と楽しい時間を過ごすというのは間違いなく幸せで、楽しい。
また次の機会を楽しみに頑張る方向で4日後からは更に活力がみなぎる気がする。
「たぶんまた行きたくて頑張れると思う。」
エレナは頬を押さえる手を弱め、何を思ったか今度は両頬をつねる。
痛いです。
「あのね、クレアはまじめすぎるの。前にも言ったけど、あなたが笑うと周りも幸せになれるわ。あなたの笑顔にはそれだけの力がある。あなたが幸せに過ごせれば、みんなを幸せにする政策が行えるはずよ。あなたが幸せそうでなくて、生真面目に何かに追われているような状態で、人を幸せにできるの?まずあなたが幸せであるべきよ。幸せでないと余裕は生まれないわ。エドワード様のことも心配なのでしょうけど、それはエドワード様自身の心との闘いよ。あなたが幸せでないならエドワード様だって余計に追い詰めてしまうわ。あなたが幸せなら、エドワード様だって立ち直れるかもしれないじゃない。それともエドワード様はご自身がこんな時にクレアが幸せだと恨みを強めてしまうような方なの?違うでしょ?」




