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身分というのは難しいものだ。
「私は別にあなたが領主で、私が領主夫人ということで良いのですけどね。血統や身分というものは色々としがらみがあるのですね。」
エドワード殿も頷いて応える。
「本来は私は貴族でもない平民です。かつては父がこの地の要職に就いていたとしても、貴族ではなく平民です。役職と身分は必ずしも一致しません。アーノルド様が実力主義でいらしたから父を登用してくださったにすぎないのです。」
私の父はこの地を良く治めた。
まずは人事についてが1番評価されるものだろう。
「私は正直、身分にとらわれずに実力のある者を適材適所で活躍できるような世にしたいと思うのですよ。お父様のように。エドワード殿は領主としての才覚がおありです。私に何かあればエドワード殿がこの地の領主ですよ」
エドワード殿は笑った。
「あなたに何かあっては困りますよ。私の方が年長です。5つもね。何かあるならば順番は私の方が先ですからね。抜かしてはいけませんよ。お行儀よく順番を守ってくださいね。」
私も思わず笑ってしまう。
「努力致します。私、社会性に欠けるところがございますから。少しせっかちですし。できるだけ年長者にお譲りしますわ。」
「それで良いのです。」
お茶とクッキーを楽しみながら、たわいのない話で笑いあうのも良いものだ。
難しい話ばかりではなく、プライベートなことなどもどんどん話をしていくべきなのかもしれない。
「エドワード殿もお忙しいから雑談はためらわれるのですが、これからはもっと色々なことをお話ししたり、考えていけたらと思うのです。」
提案してみると、エドワード殿もあっさりと同意してくださった。
「そうですね。私もあなたの婚約者としてこれからもっとあなたを理解していきたいです。今までは結婚前の令嬢の私室に入り浸るのもどうかと必要最低限でと遠慮しておりました。婚約を破棄なさる可能性を考えると、今後のあなたの縁談に差し障るのではないかと懸念して。あくまでも部下としての立ち位置で接するのが最善かと考えておりましたが、まずはお互いを知り、理解していくことが仕事でもプライベートでも良きパートナーとなれるのでしょうね。」
「そうですわね。そういえば私、エドワード殿のことはオリバー殿のご子息で、私よりも5歳年上の殿方としか情報を知りませんわね。」
そう言って笑うと、エドワード殿も笑いながら話してくださった。
「私の母は町の婦人会の会長を務めるいわゆる肝っ玉母ちゃん的な人でした。2年前に病で亡くなりましたが。商工会で働きながら、父と2人で剣の修行をしてここまできました。好きな食べ物はパンケーキ、好きな色はクレア様の瞳のような淡いブルー、尊敬する人は父と、アーノルド様。好きなことは仕事終わりにあなたと紅茶とクッキーを楽しみながらお話をすること。私の愛称はテッド。母からはそう呼ばれていました。クレア様もこれからはテッドと呼んでください。あとは…何でも聞いてください」
私のことを好きなものの一部に関わらせてくださっていることに、テッド殿の優しさや私を大切にしてくださっている気持ちを感じた。
「2人だけの時はテッドと呼ばせて頂きます。テッドも私のことを2人だけの時くらいはクレアと呼んでくださいね。」
明日の会議の相談そっちのけで談笑して、楽しい夜であった。




