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耳鳴りがうるさい程の静かなこの空間。
一体なぜここはこんなにも何もないのだろう。
なぜ私には何もないのだろう。
富も名誉も、夢も希望も、目の前の光ですら私にはない。ただあるのはこの静寂だけ。
私は田舎の貴族の娘だ。
名前なんてもう誰も呼んではくれない。
あるのはクレアと呼ばれていた記憶だけ。
年は15歳くらいだと記憶している。
ありがちだが3歳の時に両親を事故で亡くし、父の弟が跡を継いだ。
私は叔父の養子となり、少しづつ、少しづつ城から離れへ追いやられた。
3歳の私は訳もわからずに突然大好きな両親と会えなくなり、そして叔父たちには疎まれた。
元々父と叔父は仲が悪かったのだろう。
メイドたちの噂話では、父はかつてないほどの有能な領主としてこの地方を治めていたそうだ。
叔父はおそらく無能では無いのだろうが、平凡であり、国の言いなり。
そんな中で戦争のために税を上げよとお達しがあり、増税に反対する領民との諍いが絶えないらしい。
私を見ると父を思い出し、うまくいかない自分に苛立つのだろうと。
10歳くらいまでは無視はされていても、なんとか教育は受けさせてくれた。食事も一応は同じものを食べ、メイドは最低限いるが離れでの一人暮らしをさせてもらえた。
しかし、戦争でこの国が負けると叔父も爵位を返上して田舎の一貴族として細々と暮らさざるを得なくなった。
それからの私は、メイドもつかず自分のことは自分でやる寂しい毎日だった。
離れには本がたくさんあったことだけが救いだった。
毎日本を読み、歌を歌い、踊り、一人で物語の中を旅した。
お腹が空くと城へ忍び込み、食べ物を分けてもらっていたが、ある時ふと本での知識を活用したいと離れの周りを家庭菜園にしてみた。
すると自炊可能なほどには収穫を得られ、私は有意義に過ごすことができた。
成長期とは恐ろしく、衣類も新調する必要があった。
しかし、おそらく12歳くらいになった頃くらいからは城の誰も、私とは話さない。目も合わせない。
誰にも服を欲しいとは言えなかった。
仕方なくゴミとして捨てられている従姉妹のドレスを繕って着たり、カーテンなどから服を作った。
時間はたくさんあった。
時間だけはあった。
神様は不公平だ。
富も愛も様々なものは公平に分け与えられない。
でも時間だけは貧乏人だろうと王様だろうと公平に分け与えられるものだ。
有意義に時間を過ごし、強くなった私。
でも、過ぎていく時間とともに、大好きな両親の優しい笑顔も、私の名前を呼ぶ声すらもおぼろげにしか思い出せない。