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空の書庫シリーズ

420番街

作者: 亜房

結局書いてしまった。

まぁ気分転換にはちょうど良かったかな。

宜しければ。

 現実逃避に走る駅前。随分遠く迄来てしまった。正直に言うと何処に来たのか-良く考えれば来てしまったが正しいかも知れないけど-全く分からない。だが酷く危ない所に来てしまったのは感覚的に判断出来た。吹いてきた風に硝煙の臭いが含まれている。でも、怖さは不思議と感じなかった。私は何処か壊れてしまっているのかも知れない。病院に何度も行ってた頃はあれ程生きたかったと言うのに、生に対する執着が全く無くなってしまった。


『そこを通るお嬢さん。』


 声の方向には、嘘も着いたこと無さそうな程に真面目そうな顔をした男が立っていた。生憎ナンパとかに対応する余裕は無いから無視する。こんな余裕無さそうな感じが周りに充満してる人に何故声を掛けるのかよく分からない。

でも、彼はそれに懲りずに話しかけてくる。


『こちら側に来るのは初めてみたいだね。此所に来るのは初めてかい?』


無視するつもりだったがここら辺の事を知っているなら話は早い。自分勝手な自分を自嘲しながら軽く頷く。


『此処は、420番街。リアリスティックでバイオレンスな作られた世界だよ。』


しっかりと聴いていたのに何を言っているのかよく分からない。何処にいても私にとって現実とは身を常にさいなむ物だ。場所を変えようとそれは変わるはずがない。そんな事を考えていたら、目の前の真面目そうな男は肩をすくめて、


『君はここに来るべくして来た人みたいだね。でも、良かったよ。今日の門番が僕で。他の人なら君を殺しているかも知れない。余裕なんてみんな持ち合わせてないからね。』


門番?門なんて無かった気がするけども。門なんて有ったなら、こんな胡散臭い通りに私は来ない。取り敢えず出方を聴こう。帰って風呂に入りたい。硝煙の臭いが体に染み付いて大層臭くなっている事だろう。


『門?ああ。形而上けいじじょうの門が此所には沢山有ってねぇ。何せ色んな人がこの街に入ろうとしてくるんだ。ソイツがどんな奴か見に行かなければならないんだよ。門番はさ。』


それは、面倒くさそうな仕事だ。門番は門一つを見ている仕事では無くなっていたようだ。普通は信じない程に荒唐無稽こうとうむけいな話だが、事実がそれしか存在しないのだからそれを信じるしかない。あぁそう言えば、


「何か用ですか?貴方が話したかった事って多分それではないでしょう?」


此処でいつまでもじっとしている訳にはいかないのだ。用があるのなら早く片付けてしまいたい。折角生まれ方は選べなくても死に方はある程度は選べるのだから、こんな訳の分からない世界で殺されるよりマシな死に方をしたい物だ。


『そうだったね。君に渡す物があった。』


そう言って手渡されたのは酷く実用的な見た目のコンパクトガン。私は反応に困った。


「どうしてこんなものを?私はもう帰るのに。」


 思わずそう言うと何を言ってるんだコイツという顔をしてこんな事を言いやがった。


『此処から出ること何て出来ないと思った方がいいよ。だからこその銃だ。君に必要であろう数の弾数が入っている筈だ。そういう仕組みだからね。』


 そんなこと知らなかった。知ってたらまぁそもそも此処に来てないであろうから関係は無いかもしれない。


「ところで、帰るとしたらどうやって帰るの?」


 すると、彼は当然のように答える。


『それは多分死ぬか、自分が抱えている問題になっている人を殺すしかないね。』


『君は多分それが出来る。』


 そんなの一つじゃないか。私が来るべくして来たというのは本当なのかも知れない。私が抱えている問題は私自身が問題の核であり、直接の原因だ。多分、今迄色々な人に掛けてきた迷惑の禊をする為に私はここに来たんだろう。怖くないわけではないが余りにもストンと腑に落ちた。


「はい。しっかりと果たしてきます。」


そう。私が必ず果たさなければならない事なのだ。【生きたくないけど死にたくない】とかいう宿痾は『諦め』という簡単な感情で簡単に治ってしまったようだ。


『ところで、君の名前は?』


今更、どうでもような顔をして聴いてきた。仕事だから仕方なく聴いてるようだ。多分この世界では名前は記号の様なものなんだろう。模造品を壊すハンマーを誰もが多分持っていて誤解なんてものは存在しない。こんな世界が現実だったらよかったのに…私はそう思った。


オキと言います。」


私もどうでもいいと思って答えた。この場所が何にこの名前を利用しようと正直言ってどうだっていいのだ。


『ありがとう。もう会わないと思うけど一応君の選択がいい方向に向かうことを願っているよ。』


そう言って彼は居なくなった。最後迄真面目な仕事人間だった。私は彼が見えなくなるのを確認したあと引き金を引いた。


残されたコンパクトガンにはもう弾は入っていなかった。


囃す居なかった筈の人々。

その定まっている口上はいつもの習慣であることを窺わせた。


『只二人だから咲く。それ以外は邪魔者。まるで鋏を挿し込む蟹。速く前足を取り外そう。何せ何せ解る虫。ただただただただ解る虫。いつ滅茶苦茶にするか分からないから。』



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