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2 ソカーニル

「リズ、聞こえるか?聞こえるか?オーバー」

「聞こえる聞こえる。オーバー」


 ふむ。この世界でも無線が使えるようで安心した。小型無線機を持ったリズに陣地の向かい側に行ってもらって、性能のテストをしていた。ハンビーに付いている通信機器も含め、全部リズが設定してくれた。


「この調子なら戦闘中は問題なさそうだな。オーバー」


 もしかしたらこちらの世界では無線は通じない可能性もあるかもしれないと思っていた。この世界には魔力が存在し、それがどんな影響を与えるか分からないからだ。それだけでなく何もかも未知の世界だ。物理法則が地球と同じとは限らない。


「大規模な砲撃戦や魔術戦になったらどうなるかわからないけどね。まぁ恐らく問題ないんじゃないかな。オーバー」


 とりあえず比較的短距離であれば問題なさそうだ。魔力は通信の邪魔になっている感じはしない。長距離での通信は今後の課題かな。



 携帯電話の普及している現代なら、世界の反対にいる人とも会話できるんだけどなぁ。それをやるには通信局を建てたり、人工衛星を打ち上げたりしなきゃいけないんだよな。



「いろいろ試したいことが山積みだからな。ありがとうリズ。とりあえず戻ってきてくれ。オーバー」


  日本じゃ銃の試し撃ちなんてロクに出来やしない。ヘリやら戦車についても今後検証してみたいところだ。









  炭酸飲料の入った缶を的にして射撃の練習をしてみる。リズに勧められて、MK.11 mod.0を作ることにした。3DのCADデータを扱うかのように、魂魄結晶の中に保存してあるイメージを取り出す。このまま作り出してもいいのだが、先ずは作業場からだ。右手の先に漆黒の球体空間を作り出してどんどん大きくする。


 この空間が俺の錬金術の作業場だ。俺はこの球体を『錬金術師の工房』だと考えている。ライフル銃を生成するので、それよりも大きな工房を作り出してみる。手のひらの上に空間を作っていたが大きくなってきたので、手を正面に突き出すような格好になってしまう。この中に空気、水蒸気、塵などを取り込んで変換し、銃を生成していく。



 外から真っ黒い空間の中を見ることはできないが、俺自身は空間の内部が把握できる。



 左手を空間の中に突っ込んで、出来上がったライフルを取り出す。あっという間に出来上がりだ。銃と同様に、アクセサリーを生成した。


 この空間を作らなくても錬金術を行うことは可能だ。実際、前回の空対地ミサイルはそうやって生成している。俺の工房は気密室としても機能するので、より精密に作りたいならばこの空間を作らねばならない。



 リズは、魂魄結晶に刻まれた錬金術の使い方を解明しようと試みた。しかし、刻まれた錬金術の魔法は完全にブラックボックス化されており、解明出来なかった。俺自身でも仕組みが理解できていない。だが、物体を読み込む魔法、言ってみれば魔力解析(トレース)の魔法は解明することが出来た。俺が使える武器関係のトレース元は、殆ど全てリズがトレースしてくれたものだ。



 リズにサプレッサーをつけてもらい、ホロサイトにブースターをつけてもらった。俺は主にゲームで楽しむ知識の浅いミリオタだが、リズは俺よりも遥かにミリオタだ。俺が学校に行っている間は軍事基地によく侵入して訓練に参加してるいるらしい。この装備はそういった中で見つけてきたものを魔力解析(トレース)したのだろう。



 しゃがんで右膝をつき、左脚と左手で銃を支える。 五十メートル離れた空き缶に、膝撃ちで狙いをつけた。



「やっぱ重いなぁ」


 肉体も人間の俺に近づけてあるので銃の重さが感じられる。肉体機能はもっとあげることが出来るので、多少改善した方が良さそうだ。



 間隔をおいて二発撃った。どちらも見事に外れだ。


「やっぱダメだなぁ」


 五十メートルなんてゲーム内で同じ装備なら簡単にヘッドショットなんですが……この距離なら風の影響とかあんまりなさそうだし。サイトを調整しないとダメだろうか。俺の作った銃の精度自体がダメだった可能性もある。まぁ五十メートルって、実際はかなり遠いしなぁ……


「渉、ちょっと貸してみて」


 言われるがままにひょいとリズに手渡す。リズは待ちきれなかったのだろう。いつもより口数が少ないし。おかげで俺まで緊張してしまった。リズは幼い顔に似合わない真剣な顔でライフルを構えている。調整はせずに、同じく膝撃ちで構える。そして撃つ。見事に缶が飛沫をあげて舞った。マジで完璧かつ非常にスピーディーな動き。


「びゅーてぃふぉー……」


 その言葉しかでねぇ。リズは銃を下げ、笑顔でガッツポーズを見せてくれるのだった。






  その後も騎士様方が作戦会議をしている中、俺たちは射撃訓練を続けた。リズに銃をいじってもらうと、上手く的に当てることができた。


 逆に言えば、リズはサイト調整が完璧でなくても当ててたんだな……その後も空き時間の間にゼロインなどの基本的な操作をリズから教わった。



 リズに勧められたMk11だが、セミオートでは実戦初心者の俺としては心もとないので、フルオート可能な銃にしたいところだ。俺はこの世界に来る前にいろいろと検討した結果、リズが「クレーのお気に入り」と呼ぶ.300 ブラックアウト弾を使う、カスタマイズされたM4にたどり着いた。とある米兵が使用している銃だ。俺としては実際にそちらを使いたい。副武装としては、.454カスールのスーパーレッドホーク・アラスカンをチョイスした。


 リズは先ほどのMK11を使うらしい。そして副武装にはMK.23 Mod0、いわゆるソーコムピストルだ。リズは純粋に魔法の火力があるので、銃は要らないんじゃないかと思うところではある。休憩中の皆さんに申し訳ないので、M4にサプレッサーをつけて射撃練習していた。











 突然、正面が騒がしくなる。戦闘準備に取り掛かっていた。リズに軽く頷き、向こうも頷いた。お互い空を飛んで、一気に最前線へと移動し着地した。


 陣地から離れたところに、白いドラゴンが地面に居座っていた。ドラゴンはそのいかつい顔でこちらを見渡している。ドラゴンが俺の方を見たとたん、動きが止まった。


「なぁリズ……もしかしてお目当ては俺らか?」

「かな。やっちゃう?いつでもいいよ」


 リズはヘルファイアで片を付けるのをお望みだが、単騎ソーティーで来るのはどういうことだろうか。リズいわく、ドラゴンは人語によるコミュニケーションをとることが出来ないはずだ。会話コミュニケーションが不可能ならば、戦うしかないのだろうか。



 でもまぁ、とりあえず前へ進んでみる。するとドラゴンは、一瞬で姿を消してしまった。どよめきが背後で起こったが俺もビックリだ。


 だがよく目を凝らすと、ドラゴンのいた場所にフードを被った人影があった。あまりにも非現実的なんで、思考も歩行も立ち止まってしまったが、つまるところアイツに会ってみるのが早いってことだろう。


 魔法の世界だし、近づいたら一瞬で殺されるとかいう可能性もあるわけだが、俺の今の命は仮のもので、本当の俺は地球にいる。今頃布団の中で熟睡しているのだ。その余裕があった。一歩ずつまた歩き出す。


 落ち着いて観察すると、胸が膨らんでいる気がする。髪も長い。ローブのフードから出た白い髪が風になびいている。彼女がフードを外した。そして真っ直ぐにこちらを見つめる凛々しい顔……中学生になったばかりの俺の妹よりも上で、俺より少し歳下くらいな感じ。なんというか……とても可愛い子ですね本当にありがとうございました。異世界に来て美少女ドラゴンとかこれは……


「君がドラゴンの群れを倒したのかい?」


 まだ遠いが話しかけてきた。英語だ。


「まぁそんなところかな。君はさっきの白いドラゴン?名前は?俺は渉って名前だ」


 あんな可愛い子がドラゴンで、しかも俺に話しかけてきてるとか現実味がなさすぎる展開だ。ゲームや小説である程度耐性ができててよかった。


「我が名はソカーニル。さっきの白いドラゴンだよ。渉、君に話があってきたんだ。お互い精霊なら話が早いじゃないか」


 お互い精霊?精霊歴一年未満の俺には全く分からない。


「リズ、あの子精霊なのか?」


 ついてきたリズに振り返って尋ねる。ドラゴン、美少女、精霊?……ドラゴン美少女精霊?正直頭の整理が追いつかなくなり始めた。


「強大な魔力を保持してるのは間違いないし、空間のマナもとんでもない範囲を制御してる。彼女の言うことは本当だよ」


魔力は人間などの生物が体の中に宿す魔法の力だ。そして、マナは大気中に溢れる魔法の源である。ドラゴンという種族は人間よりも遥かに多くの魔力を生み出すことが可能だ。しかし、ドラゴンは大気中のマナを操る精霊魔法はそんなに上手じゃないとリズは言っていた。つまり……


「この世界最強の魔法の使い手ってことか……」


ぱっと浮かんだが、おそらくこの解釈で間違ってないはずだ。俺のつぶやきに、ソカーニルという少女はニッコリと微笑みによって返した。

渉は、よく言えばノーテンキって感じです

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