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44 われわれの美徳とは 、たいていの場合 、偽装された悪徳にほかならない

 ポルタヴァの魔族が降伏してから三日経った。この間は快晴が続き、雪は溶けて、泥まみれになった大地も乾燥している。青々とした草木が再び大地を覆っていた。


 ポルタヴァの城塞を出たところで、三台のほろ馬車が検問所で止まる。時刻は朝の八時だ。検問所にはリストチェントへと向かう人々が大勢集まっていた。


 馬車は布で覆われているために外からは見えないが、積荷の大半はパンの材料が入った袋である。その他にも、毛布などの生活に必要な物資が入っていた。これら全て渉が用意したものであり、殆どは錬金術で作り出した物資である。馬車も渉が用意したもので、世界樹付近で営む貸馬車から借りたものだ。


 荷物を載せているのは三台のうち二台だけであり、一台は空になっている。周囲は護衛の冒険者達で固められていた。これから検問所の職員達が積荷を確認し始める。


「大精霊様の依頼ですね。簡単な検査で終わりますので、冒険者の方々は荷台を使っても構いませんよ」


 積荷を降して細かくチェックするのが常だが、「例外のない規則はない」ということなのだろう。冒険者達はすぐに荷台が使えることに喜び、空だった荷台に荷物を放り投げた。幌馬車なので、中にいれば冷たい風を凌ぐことができる。そのまま荷台に入っていく者もいれば、荷物の検査に立ち会いをする者もいる。


「慣れてるんだな」


 様子を見ていた渉が、この冒険者達のリーダーに話しかけた。今日の服装はいつもとは違い、ジャケパンにグレンチェックのコートである。それなりに着飾っていた。


「普段から馬車の護衛をやってるからな!俺たちの評判を聞いて声をかけたんだろう?」


 冒険者達は剣とマスケット銃で武装していた。冒険者では希少な、いわゆる魔法使いの服装をしたメンバーもいる。対人戦闘を意識した、護衛専門の冒険者集団である。用心棒や傭兵に近い存在であろう。


 冒険者は武器を所持することができるが、人間相手に使用してはならない。しかし自衛のためなら許されており、馬車を護衛するような場合にも適用される。


「実際に君たちを見て頼もしく感じたよ。この戦争が終わって初仕事だと思うが、どうか無事に届けてほしい」


 渉がこの冒険者集団に発注したのは、ジュリアが住む村へと物資を届ける依頼である。厳しい寒さが続く中、一度救ったあの村を気にかけていた。


 渉が先に村を訪ねて、ジュリア達には話を通してある。その時に錬金術で作ってしまえばいいのだが、今回は一人なので誤魔化しがきかない。能力を知られないためにも、なるべく正規の手段で渡しておきたかった。


「リストチェントまでは安全だ。目的の村はリストチェントの近くだが、街道から少し離れるんだったな。盗賊でも魔族でも、奴らはそこを狙って襲ってくるんだ」


 今回の十字軍以前からそうだが、どの国の街道も安全ではない。一昔前に比べれば安全になったが、荷物を運ぶには護衛が必要だ。


 非常時である現在は、一日一回、ポルタヴァからリストチェントまで竜騎兵(小銃で武装した騎兵)二個小隊が護衛する「定期便」が用意されている。「今こそモノの流れを止めてはならない」という臨時でポルタヴァを預かるロンカリア大公の政策だった。今日の便は二時間後に出発だが、荷物の検査があるので北に向かう人々が既に大勢集まっている。


 廃墟となったリストチェントは交通の要衝であり、商人が行き交う賑やかな村だった。リストチェントの再建は帝国の優先事項である。


 復旧作業は奪還時から始まっており、作業の傍で物資の集積作業が再開されている。労働力を受け入れるために、既に仮設の冒険者ギルドが建設済みだ。


「道中の魔族はあらかた駆逐されてると思うけど、油断しないでくれよ」


「分かってる。十字軍が去った地域では賊が増えてるらしいな。だけどあんたが気前よく前金を払ってくれたおかげで、俺たちはマスケットとブランダーバス(散弾銃)を新調することができたんだ。これなら賊も近付かんだろうさ」


 渉は、馬に騎乗している二人の冒険者に視線を移した。彼の言うように銃で武装している。冬の長旅なので、道中で交代しながら警護するのだろう。


「報酬の残りはギルドに預けてある。受け取りはこのポルタヴァの冒険者ギルドでよかったよな」


「それで問題ない。こちらからも確認だが、リストチェントで合流する少女の名前はジュリアで間違いないな」


「その通りだ。その他にも何名か来るんだけど……そう言えば、ジュリアに説明した後写真を撮ったんだった」


 渉はコートの内ポケットから手帳を取り出して、中から一枚の写真を引き抜いた。


「こいつは凄いな。大精霊が描いたのか?ツルツルした紙だけど、立派な似顔絵じゃないか」


「これで間違わないだろ?依頼のついでなんだが、その写真をジュリアに渡してほしい。写真では笑顔だけど、彼女はこの戦争で家族を失ってるんだ。笑顔になってほしいからさ」


「追加の依頼だな、それくらいはお安い御用さ。もちろん代金はとらねぇよ」


 それを聞いた渉は、悪い冒険者ではなさそうだと安堵した。それでも念のために、馬車に仕掛けた盗聴器とグローバルホークで監視するのは変わらない。


 軽い挨拶を済ませた渉は、冒険者達が出発するまでの間に別の用事が待っているのだった。


『われわれが美徳と思っていることも 、じっさいには 、さまざまな行為とさまざまな欲得がないまぜになったものにすぎない場合が多い 。ただ 、運によって 、あるいはわれわれがうまく立ち回ることによって 、それがたまたま美徳に見えているだけのことである 』

ラ・ロシュフコー


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